画像数40枚 しばらくお待ちください・・・ TOP


 写真:熊本県南小国町中湯田集落の農家民宿「さこんうえの蛙」

 2002年3月14〜15日、「魅力の田園を活かす」をテーマに阿蘇国際高原シンポジウムが開催された。ワークショップは、熊本県南小国町で開催された「ツーリズム振興と田舎の生業創出」に参加。住民、大学、行政の民・学・官連携によるワークショップは、集落点検の手法から田舎の生業創出まで、かなり斬新な考え方や提案がなされた。

 ワークショップ・・・住民自らが集落の中を点検したり、目標を決めて話し合い「共同でむらづくりのための意見を出しあって、それを一つにまとめる作業を行う集り」のこと。
 左:ワークショップ会場となった南小国町役場 右:左端が「九州のムラ」編集長・養父信夫氏、二人目がモンタナ大学経済学部トーマス・パワー教授。
 現地ワークショップは、南小国町中湯田集落で実施。まず中湯田集落の集会所「ねむの家」で集落点検の新しい手法について学ぶ。
 アドバイザーは、熊本大学文学部徳野貞雄教授。

 これまでの農業経営論や産業論の分析では、ムラの将来像は描けないと厳しく批判。人口増加イコール地域発展といった従来の「人口増加型パラダイム」ではなく、人口が減少することを前提に、少ない人口でも地域の人々が生き生きと暮らせるシステムを形成することがポイント。ムラが元気であれば、そのムラは生き残れる。つまり、ムラを構成する家族、個人をどうやって元気にできるかが鍵。集落点検はモノではなく、家族、人に焦点をあてるべきだ。
 上の例は、別所集落を家族、人に焦点をあてて点検した結果。数字は年齢を示している。さらに一軒一軒を対象に、嫁がどこから来ているか、子供はどこに出ているかまで詳細に調べる。このまま放置したら10年後はどうなるかを予測する。確実に人口が減少し、ムラの元気がなくなることが予測できる。都会に出ている子供たちをムラに呼び戻すなど、「こうあってほしい」という願望も含めて「努力したらこんなに良くなる」という将来も予測する。

 過疎化が進む集落は、特に家族の将来に対する不安が大きい。家族に焦点をあてた集落点検の手法は、集落の現状と10年後の姿、さらに、各家々の将来像まで描くことができる。さらに集落が抱える課題の解決も図りやすいという。
 中湯田集落は、四方を山に囲まれた総戸数17戸の小さな集落。まるで落人部落あるいは隠れ里と言うに相応しいムラを歩いて回った。まず一軒目は、元畜産農家で現在祥平窯(陶芸)を営む河津耕治さん宅。耕治さんは高校卒業後、アメリカ・オレゴン州の牧場で2年間牛飼いの経験を積んだ。ムラに帰り130頭の肥育農家になったが、10数年前あっさり陶芸に転向。ムラにいち早くグリーンツーリズム的手法を持ち込んだのも、この人だという。

 「利潤追求はやめている。それをやりだしたら止まらなくなる。山間地の生き方は、静かに楽しく暮らすこと」だと言い切る。ハイリスク・ハイリターンの経営は、一歩間違えば命取りになる。あくまで持続可能な低リスク・低リターンにこだわっている印象を受けた。キーワードは、「食」と歩いて回るような「スロー」・・・安全な食にこだわる「癒し」の里といったイメージ。
 元畜舎を改造し、陶芸の作品を展示販売している。この他に無農薬の米づくりや米を使った煎餅などの加工品を手掛ける。「都市と農村の交流と言えば、大方の農家が都会の方を見ているから、どうしても経営に走ってしまう。資材とか機械をどんどん入れて、見た目には派手にやっているように見えるが、経営能力がついていかないとすぐに行き詰まる。しかし、自然の中に豊かさを見出せるような価値観を持っていると、利潤を追求しなくてもいい。その中で自分も楽しめる」と、山間地における志向の転換を熱っぽく語った。
 元牛舎を改造し、遊びにきた仲間たちのための宿泊施設として活用。
 都会の価値観には決して迎合しない。賑やかに騒ぐ観光客はムラの中には入れない。あくまで「食」と「癒し」の里にこだわるような人だけに限定しているという。昔からある生業を活かしているから、都会の人たちにも魅力がある。それを失ったら、このムラの魅力はなくなる、と力説した。
 2軒目は、ムラで木工所を営む河津良隆さん宅。南小国と言えば、九州で最も有名な黒川温泉がある。この温泉の入湯手形は有名だが、その全てをここで作っているという。
 古い石垣  伝統的な農家建築
 軒下には、冬の暖房用として薪が積まれていた。
 3軒目は、坂の上にある農家民宿「さこんうえの蛙」。写真は、山から沁み出す湧水を利用した昔ながらの洗い場。宿の当主・河津正純さんは「宿は単なる点に過ぎない。窯元、木工所、煎餅、花きハウス、農産物加工所、畳屋、味噌など昔からある生業の点と点を結べば線になり、さらに集落という面になる。つまり宿は集落によって支えられている。」と語った。
 古い洗い場全景。  背後の山は、鬱蒼とした杉林。自然景観を大事にしていることが伺えた。
 地域づくりの常套手段であるイベントには、元々懐疑的だったという。一過性のものが多く、開催する側もサービス疲れしてしまう。そこで無理をせず、やる方も楽しくやりたいと思い、築120年の蔵を改造した農家の宿を立ち上げた。
 入口には、むらづくりに関する雑誌やパンフレットが所狭しと並べられている。右は木をふんだんに使った宿の内部。1泊2食付きで5,000円。「集落を観光地にはしたくない。自分たちの生活も乱されたくない。それがムラの統一した考え」。食についても「このムラで採れたものしか出さない」と言い切る。
 庭の真ん中に、東屋風の建物を配置。中央には囲炉裏があり、ゆっくり食事を楽しむことが出来る。
 中湯田集落はこの50年間、戸数に変化はないという。大体が三世代で、一人暮らしの老人はいない。都会に出た跡継ぎも帰ってきている。「20代で一旦都会に出て、また帰ってくるのが大事だ」と語った。
 ムラで手作りしている味噌や漬物などを持ち込み、展示販売している。 風呂は、一風変わった五右衛門風呂。
 編集長・養父信夫さんが手掛けている「九州のムラ」(九州のムラ出版室、1000円。九州のムラHPアドレスhttp://www.mmjp.or.jp/kyushunomura/)。この第7号に中湯田集落の取り組みが詳細に紹介されている。本格的なローカルマガジン「九州のムラ」は、特集として「グリーンツーリズム」「ムラの必殺技」「ムラの生業」など、ムラに暮らす人々の営みやつぶやきを丹念に拾い集め「心豊かに生きる」「悠々と生きる」ヒントを探っている。
 炭焼き窯。こうした昔からの生業を大切にしているも特徴の一つ。
 湯田神社に鎮座する巨大な神木。
 国際シンポジウムで特に目を引いたのが「菜園家族レボリューション」を提唱した滋賀県立大学人間学部小貫雅男教授の提言。ドキュメンタリー映像作品「四季遊牧 ツェルゲルの人々」の世界を題材に、家族経営・小経営のもつ優れた側面を見直すべきだと訴える。「農業は芸術であり、人間を育てる力がある。利潤を追求する産業論は捨てるべきだ。モンゴルのように家族三世代が支え合って生きる素晴らしさに学ぶべきだ。日本は今、みんな孤立しているではないか。昔に少しづつ戻す作業が必要だ」と訴えた。

 「菜園家族レボリューション」(現代教養文庫、社会思想社、小貫雅男著)・・・市場原理至上主義に基づく競争の激化は、何より人間の精神を荒廃させる。大量生産、大量浪費、大量廃棄型の拡大経済から自然循環型社会へ回帰する必要がある。21世紀最大の課題は、大地から遊離した人間をいかにして大地に引き戻し、大地にどれだけ近づいていけるのか、ということに尽きる。そこで、週休5日制による三世代「菜園家族」を提唱。週2日は従来型の給与所得を確保し、残りの5日は家族再生のために「菜園」にいそしむ。つまり、現金収入は半減するが、菜園によって補完されるという考え方。これは、地域の雇用を増やす日本型ワークシェアリング方式としても貢献できる。小貫教授は、阿蘇高原に展開する「菜園家族」にモンゴル放牧方式の導入など大胆な提言を行った。 
 阿蘇駅周辺、耕起を終えた田んぼ。

 「どんなに゛もの゛が溢れていても、人間が人間らしく生きることができなければ、何の意味もありません。・・・生産性が多少とも下がろうと、゛もの゛が多少少なくなろうと、大切なことは、゛心が育つ゛社会でなければならないことでしょう。」(「菜園家族レボリューション」より)
 3月半ばの阿蘇・・・田んぼ周辺を黄色に染める菜の花。

 「希望はあなたを捨てはしません。あなたが希望を捨てたのです。」
 小貫教授は、提言の最後に「私はもう66歳、菜園家族をこの目で見ることはできないけれども、夢だけは追い掛けたい」と締めくくった。
参考文献
「九州のムラ 第7号」(九州のムラ出版室)
  九州のムラホームページ
「菜園家族レボリューション」(現代教養文庫、社会思想社、小貫雅男著)
阿蘇国際シンポジウム配布資料、パンフ