〜 千畑町千屋小学校の「総合的な学習の時間」の取り組みを紹介 〜



 平成14年度から、全国の小中学校で「総合的学習の時間」がスタートしております。
 今までは教科書中心の授業でしたが、これからは、子供たちが自ら率先して授業をつくり上げていく内容を目指します。
 その授業で今、農業が注目されています。
 子供たちは、土を耕し、肥料や水を与え、生きるという意味を、手のひらで、肌で、体で感じ取ることができます。
 また実際の体験の中で考え、課題を解決する能力が育まれます。栽培だけでなく、調理や加工、作物と地域の人々のかかわりなどの一連のながれも、学習の素材となります。

 今日は、小学校5年生を対象とした「総合的な学習の時間」の授業を取材しに、まだ雪深い千畑町立千屋小学校へ車を走らせました。
 千屋小学校では、「総合的学習の時間」を移行期間である平成11年度から授業へ積極的に取り入れており、今日訪れた5年生も3年生の時から幅広い活動をしていると聞きました。
 5年生は2クラスあり、生徒は45名です。
 3年生の時には、「ひまわりヘルパー隊」と称し、地元でのお手伝い体験をしたり、4年生の時には 東京都港区の小学校の生徒と、秋田県や千畑町の歴史や自然を紹介したビデオレター交換をしました。
 5年生になった今年度は、1年を通じて農業やお米について学習しています。
 また6年生になると、地域の歴史から世界情勢まで幅広く奥深いテーマを学習する予定だそうです。

 さあ、子供たちが待っています。
 さっそく教室を覗いてみましょう。

 千畑町立千屋小学校は、明治13年に千畑町千屋に創立され、その後大正元年に現在地に移転し、昭和61年の町政施行により千畑町立千屋小学校として、昭和55年には創立100周年を迎えた伝統ある小学校です。
  (千屋小学校ホームページはこちら)
 千畑町は、人口約8,700人の農業を基幹産業とする町で、秋田県の東部に位置し、穀倉地帯として知られる仙北平野の東南部にあり、町のおよそ3分の2は山地で、残り3分の1は、扇状地上に拓けた水田地帯となっております。
 学校の玄関で入口の扉を開けるやいなや、女の子から「こんにちは!」という元気な声に、大の大人がたじろいでしまいました。
 ちょうど休み時間に到着したようですが、その女の子の隣には校長先生が笑顔で立っていらっしゃいました。
 「ようこそ千屋小学校へ」
 この一年で、生徒たちは、「Let’sふるさと体験!〜みどりと土と人と〜」をテーマに、実際に稲の栽培や田植え体験をしたり、農家や生産者との交流を通して、米の栽培方法や農薬などについて学んできました。
 また食糧事務所やJA秋田おばこの方を講師に招き、体験活動も行ってきました。

 この日、講師として派遣されたのは、秋田県の仙北平野土地改良事務所職員の3名です。
 「むすんでひらいて」と題し、人と自然のつながりや、ほ場整備という仕事や農業用水路が持つ役割、そして地元では貴重となってしまったハリザッコの保全などを通じて、生徒と一緒になって、自然との共生の道を探ります。

 さて、今日はどんな話が聞けるのでしょうか。

 私たちが毎日口にするお米は、どこから、いつ頃日本に伝わったのでしょうか?
 お米づくりに必要なものは何でしょうか?
 「ハイ先生、水です!」
 さっそく元気は答えが返ってきました。
 説明と同時に飛び出す質問からは、3年生から学んできた知識と、真剣に学ぶ姿勢が伺えます。
 そう、米作りに欠かせない命の水…昔の人は、お米を作るために、すごい苦労をしました。
 子供たちの住む地域でも、その昔、田沢疎水と呼ばれている水路を作って仙北平野を今も潤し、米どころ秋田を代表する地域となっています。田沢疏水が物語る歴史に、かたずを呑んで聞き入る生徒ら。


 「皆さん今日は『ほ場整備(ほじょうせいび)』という言葉を覚えて下さい」

 水が安定的に流れてはくるものの、小さく、水はけの悪い田んぼでは、農家の人たちが安心して美味しいお米は作れません。
 そこで必要となったのが、田んぼの区画を大きく整理し、水路や道路を使いやすくするのが「ほ場整備」です。秋田県でも各地でほ場整備が行われ、農家は時間をかけず、楽に、たくさんのお米を作ることが出来ました。
 ただ便利で豊かになった反面、イバラトミヨ雄物型など、地元ではハリザッコと呼ばれ親しまれてきた魚などが、犠牲になってしまいました。
 しかし現在は、地元小学生や地域住民が一体となって、適切な保全対策を図る様々な取り組みを行うとともに、地域の子供たちへ情操教育の場も提供しています。

(左の写真は、写真集『米づくりの村』(井上一郎著)より) 

 これまで日本で絶滅した生物の数は、102種類で、そのうち秋田県からいなくなった数は23種類にも及ぶ。
 一方、地球上においての絶滅のスピードは、1970年代に1日1種類だったのが、2000年代には1日100種以上という現実に、ビックリする生徒たち。
 「私たちの住む地域から、貴重な動植物がいなくなっているの?」…何だか講師の人たちが悪者になってしまったようだ…。
 そんなことはないよ、ほ場整備前に地域の調査もするし、地元の人の話も聞いて、貴重な魚の引っ越しや、末永く住める水路も作ってるんだ。
 講師の説明に対し、熱心にメモをとる生徒たち。自ら不思議や課題を見つけ解決していく、また学び方や調べ方も身につけていく。
 さらに将来のふるさと、未来の自分の生き方までも考える。
 今日の授業は今年度の「総合的な学習」の集大成となりそうです。  
 「総合的な学習の時間」の内容は、各学校で自由に決めることができます。また決まった教科書もなく、その学校が創意工夫を発揮して行うことになります。
 今回の授業を取材し、子供達へ一方的に教えるだけではなく、世代を越えた交流と地域ぐるみでの取り組みが必要な時代と感じました。
 たった2時間の訪問でしたが、校長先生をはじめ、教頭先生、担任の先生ら皆が一丸となって生徒と接しているのが発見できました。
 写真は、5年生クラス担任の鈴木清穂先生と、吉川寿朗先生の若い二人。
 情熱いっぱいの授業の成果は、生き生きした生徒たちの、明るい姿や積極的な活動からも充分伺えます。
 今回の授業の講師となった仙北平野土地改良事務所の若手職員。ひとつのことを教えるのに、百の勉強が必要、まして子どもたち相手だと、なおさら難しい…学校の先生たちってすごい!
 教える側になって自分も勉強になり、子供たちから逆に教わる事も多かった今回。充実した時間を過ごすことができた、と話しておりました。


 取材を終えた数日後、千屋小学校の5年生から仙北平野土地改良事務所へ沢山のお便りが届きました。
 土地改良事務所の講師に対するお礼と、授業内容の感想などです。
 ほんの少しですが、寄せられたみんなの声を紹介しましょう。


「貴重な動植物の絶滅ペースに驚き、人間が川を汚し、山の木を切り倒し自然を減らしていることが悲しいです。」

「水がないと私たち人間や動植物が生きていけないことが心に残りました。」

「人間の都合だけで地球上の生き物が少なくなっていく。自然環境の保全と農業の発展のバランスが大事です。」

「秋田の自然の美しさや素晴らしさを知り、これからも身近な自然に関心を持つと同時に、自然を守っていこうと思いました。」

「授業で分かったことがたくさんあったけど、不思議に思ったこともたくさんあり、これからはこの不思議に思ったことを少しずつ解決していきたいです。」

「未来は自然の少ないビルがたくさんの世界になっているのでしょうか?それとも自然があふれてバランスのとれた素晴らしい世界に?未来がとても楽しみです!」


…などなど。
 子どもたちは大人が考えているより、ずっと先を行ってて、お米や魚のこと、農業や自然のことに対し真っ直ぐな気持ちで接して、勉強しているのがすごくよく分かりました。

 
 千屋小学校では、「総合的な学習の時間」を通しての様々な体験活動を手がかりに、身近な自然の素晴らしさや、町を支える産業の価値を学ぶことにより、ふるさとを愛する心と態度を育むことが出来ると考えます。
 ただ悩みもあります。
 校外活動が増え、子供達の安全性についても心配です。また予算的な面や時間的な制約で、どうしても先生達だけでは対応できない部分も出てきます。
 これらの解決策として、千屋小学校では、今回のように外部から講師をお願いしたり、教育関係以外からも様々な事業等を活用するなど、ネットワークを上手く利用し、効率よく授業を展開しています。
 秋田県としても、農業・農村の持つ多面的な役割を充分発揮していくために、食農教育や農業体験の場等の農業を愉しむ場など、県民が学校教育や日常生活の中で、農村空間にふれあい親しんでいく場づくりを積極的に進めています。

 左の写真は、千屋小学校の鈴木明美校長先生で、平成15年2月22日(土)に仙台市で行われた、「東北こどもサミット」へ参加された際の、会場でのひとコマ。
 子どもサミットの詳しい様子は、本ホームページ「ふるさとって何だろう〜東北こどもサミット〜」をご覧下さい

取材・編集:秋田県農林水産部農地整備課
取材日:平成15年2月17日