あきたさきがけ社説(2000年5月16日付け)
田園空間博物館 住民の主体的な参加が肝要

 農村は、農業生産の基盤となる生活の場としてだけではなく、住民が長く培ってきた伝統や文化、やすらぎのある景観、それらを含む観光資源的な要素など、多面的な機能を持つ空間と考えられる。

 この生産と生活が密着した農村地域全体を博物館に見立て、田園空間博物館として整備する事業が本年度から実施される。

 一昨年九月、政府の経済戦略会議がまとめた生活空間倍増プランの一環として創設され、農水省と全国土地改良事業団体連合会が構想を練ってきた。都道府県と複数の市町村(広域圏)が実施主体となる国の補助事業。初年度の対象に本県からは「白神郷」(能代市、二ツ井町.藤里町、八森町、峰浜村)、「亀田藩」(本荘市、大内町、岩城町)の両地区が選ばれた。

 これまでとは視点と手法を変えた農村の生活環境整備ととらえることができ、趣旨を生かした事業の充実を望みたい。

 事業の内容を簡潔に表せば「美しく豊かな田園空間づくり」。県内の両地区に関しては、白神山地.を背景とする自然との共生.(白神郷)、藩政時代からの開墾の歴史と農耕文化(亀田藩)を整備構想の中核に据え、景観の保全・復元に配慮しながら情報センター的な施設と散策道、農村公園などを整備する。事業の実施期間は五年、来年度は鳥海山ろくの「環鳥海地区」(矢島町など八町)が対象に予定されている。

 田園空間博物館のイメージとしては鎮守の森があり、せせらぎが流れ、気持ち良く散策できそうな並木道があり、手入れが行き届いた田畑が広がり、落ち着いた雰囲気を醸し出す農家が点在する−といった農村風景が思い浮かぶ。しかし、離農や兼業化、農地の宅地化による混住化などによって、純度の高い農村はもはや残っていないのが現状だ。

 ところが、私たちが農村に求めるのは「やすらぎ」や「いやし」といった、日常性を離れて一息つけるような場所としてのイメージである。グリーンツーリズムの広がりもそこに起因し、景観も含めて農村の多面的機能の一つを形づくる。農村に残っているそうした要素に着目した事業構想は、時宜にかなったものと言える。

 ただし、田園空間とは、自然空間とは違ってそこに住む人たちが長年にわたって築き上げたものであり、生活空間である。観光資源的な要素があるとはいえ、博物館構想は第一義に、住んでいる人たちのための環境整備事業であると考えなければならない。

 農村を生活の場とする人たちの中には、その多面的機能の活用に積極的な人もいれば、外から人が訪れることを疎ましく思う人もいるかもしれない。景観にしても、農村の雰囲気とは懸け離れたものに変化していくかもしれない。多彩な職種の人たちが住み、さまざまな考え方、変化の可能性もあるのが現実の農村である。

 事業では今のところ、そうした変化を制限することまでは想定しておらず、「保全・復元に配慮する」との範囲にとどまっている。とすれば、事業は対象地域に住む人たち自身が、地域づくりとして主体的に参加する性格のものである、という考え方をすることが大切になるのではないか。

 農村に住む人たちが、日常の生活空間にどのような価値を見いだし、何を保全し、何を伸展させていくかを最初に考えなければ、田園空間を博物館に見立てても表面的なものにとどまってしまうだろう。事業の実施に当たっては、学識者や対象地域の住民らで構成する地方委員会の助言を得る方式をとるが、行政側の計画を住民に理解してもらうという内容になっては、せっかくの趣旨が生かされないことになる。

 農業・農村の整備はこれまで、生産基盤、生活環境、農地の保全管理の三点を組み合わせる形で実施されてきた。田園空間博物館は生活環境の整備に主眼を置いた事業であるが、農業・農村の多面的機能は、生産基盤がしっかりしていてこそ発揮されるものであることも忘れてはならない。