秋田県山本郡峰浜村手這坂集落

 かやぶき民家に住人がいた当時の手這坂集落(峰浜村)。江戸時代の紀行家・菅江真澄が、手で這うような坂を下ると、突然、桃の花が咲き誇る村が現れ、その村の美しさに感動し「桃源郷」と称えたところ。ふるさとの原風景が残っている数少ない村であった。ところが、昨年無人となり荒廃が進んでいた。

 峰浜村は、ボランティアを募って、菅江真澄ゆかりの萱葺き民家群を修復し、山村型のグリーンツーリズムなど村おこしに結び付けた保存と活用策を検討している。最近、「萱葺き民家を借りて住みたい」との申し出がこれまでに3件寄せられているという。

平成5年当時撮影された手這坂集落(平成6年9月発行「水沢ダム竣工記念誌」より)

荒廃進む 真澄の風景

かやぶき民家群修復へ 
峰浜村手這坂集落 

秋田さきがけ 2001年5月23日

 「水沢川をさかのぼり、家4,5はかりの村をてはひさかといふ」-。江戸時代の紀行家・菅江真澄(1754-1829年)が日記「おがらの滝」に絵入りで紹介している峰浜村の手這坂集落で、当時の面影を残すかやぶき民家群の荒廃が進んでいる。五棟あったうち一棟は既に廃虚化している。同村はボランティアを募って真澄ゆかりの民家群を修復し、山村型のグリーンツーリズムの拠点としての活用を検討している。

手這坂には、今もかやぶき民家4棟が残るが、昨年から無人となっている。 菅江真澄が日記「おがらの滝」に「桃源郷」と評して描いた峰浜村手這坂集落。

 手這坂は同村水沢の奥、水沢ダムの手前にある村道沿いの集落。七年ほど前までかやぶき民家四棟と、新築の民家に住人がいたが、転出者が相次ぎ、昨年四月からは集落が無人になった。

 一八〇七年にこの地を訪れた菅江真澄は、「坂中にたちて桃の真盛を見やるに、山川のさまさらに武陵桃源のものかたりに似たり」と評し、桃に囲まれた集落の絵を描いている。その桃の木も年々少なくなり、真澄が見た風景は失われつつある。

 菅江真澄研究会の田口昌樹事務局長(65)=秋田市新屋町=は「菅江真澄が訪れた当時の面影を集落単位でとどめている場所は手這坂ぐらいだろう。県全体の貴重な財産として、なんとか保存してほしい」と語る。

 ことし三月、能代市の県立大木材高度加工研究所の教授やニツ井町の設計業者らが村の委託で民家の構造などを調べた結果、二棟で屋根が朽ちて穴が開いたり、柱や梁が、雨漏りで腐れていることが分かった。

 六年前に手遣坂から村の中心部に引っ越した笹本泰市さん(65)=同村水沢下カッチキ台=は「今も毎日通って点検しているが、最近は屋根が傷み、いつ雨漏りしてもおかしくない状況。できるだけかやぶきのまま残したいが、ふき替えには大金が必要で、頭を悩ませている」と話す。

 あと数年で崩壊の危機にある家もあり、村企画開発課では村おこしと結び付けた保存策を模索。村内にただ一人残るかやぶき職人の指導を仰ぎながら、首都圏の人たちにかやぶきのふき替えを体験してもらい、村内のブナ原生林や水沢ダムに訪れる観光客に宿泊施設として利用してもらうことを検討している。同課の嶋津宣美課長補佐は「ただ修繕するのは簡単だが、活用しなければその後の保存につながらない。近くの休耕田も使ってコメ作りをしてもらうなど、手這坂集落を拠点に山村生活を楽しめる場にしたい」と話している。

峰浜村・手這坂集落 「かやぶき民家借りて住みたい」

秋田さきがけ 2001.7.26

 かやぶき民家群の荒廃が進み、存続が危ぶまれている峰浜村の手這坂(てはいざか)集落に、作家で歌人の小嵐九八郎さん(56)=能代市出身、川崎市=が「かやぶき民家を借り受け、保存を兼ねて住んでみたい」と同村に申し出ている。ほかにも村外から同様の申し出がこれまでに三件寄せられた。

作家・小嵐さん申し出 同様の希望が既に3件

 手這坂は同村水沢の奥、水沢ダム手前にある村道沿いの集落。江戸後期の紀行家・菅江真澄の日記『おがらの滝』にも絵入リで紹介され、「桃源郷」と評されている。七年ほど前までかやぶき民家四棟に住人がいたが、転出が相次ぎ、昨年四月には無人になった。現在は屋根が朽ちて穴が開いたり、柱や床板が雨漏りで腐るなど、荒廃が急速に進んでいる。

 五年前と三年前に、同地を訪れた小嵐さんは「民家にはいろりがあって情趣にあふれ、自然の冷暖房機能もある。集落わきには水沢川が流れており、環境は絶好。無人となった今、民家を放っておくのがしのぴなくなった」と申し出の理由を語る。真澄については「当時の面影をそのままの形で残すことが大切。真澄を題材にした文化事業を手這坂で展開すれば、保存につながるのではないか」と話す。

 作家活動は電子メールなどを駆使することで、同地に住んでいても可能になるため、「長期滞在して自然に触れながら原稿を書きたい」としているが、居住には屋根などの改修が必要で、費用をどう工面するか頭を悩ませている。

 小嵐さんは能代市上町出身。平成七年に「刑務所ものがたり」で吉川英治文学賞受賞。「鉄塔の泣く街」や「おらホの選挙」などで直木賞候補になった。現在、秋田魁新報朝刊の「土曜文化」欄で「遠い風近い風」を執筆している。

 他に申し出た人のうち、天王町の木元三忠さん(64)も「山村で静かな生活を送ることを夢見ていた。いろりで火をおこすと、かやに煙のやにがついて屋根が長持ちするので、住み着いて管理したい」と話す。

 申し出を受けた村企画開発課では、山村型のグリーンツーリズムなど村おこしに結び付けた保存策を検討している。そのための補助金を国と県に申請中だが、「個人に貸すことはまだ考えていない」としており、活用策は白紙のままとなっている。