朝日新聞秋田版 2002.1.21 秋田の観光政策は 「この人に聞く」
「鶴の湯温泉」社長 佐藤 和志さん(54)

 「鶴の湯温泉」を舞台にポスター撮影した時の一コマ(写真提供:田沢湖町)

 田沢湖町・乳頭温泉郷の「鶴の湯温泉」は、自然環境と調和した「山奥の湯治場」の雰囲気が人気。今や日本有数の秘湯として、全国から年間約2万5千人もが訪れる。豊富な観光資源を抱えながら、生かし切れていないと指摘されることの多い本県の観光地。「鶴の湯温泉」が成功した理由と、県全体の観光政策に対するアドバイスを、社長の佐藤和志さん(54)に聞いた。(生田大介)

 鶴の湯温泉は、乳頭温泉郷の中でも最も古い宿で、秋田藩主・佐竹氏の宿舎となったという本陣は茅ぶき屋根。三つの内湯と三つの露天風呂があり、今も発電用水車が使われている。

−成功の理由は

 「秋田にある『ふるさと』のイメージをどれだけ残せるかが勝負で、目指すのは高級旅館ではなかった。改修の際は現代風にせず、昔からの雰囲気を崩さないよう配慮した。『新らしく守る』という考え方です」

 「建材は高価な秋田杉ではなく地元の雑木。雰囲気をつくるには地場のものを使うのが一番です。壁にしても、クロス張りの方がきれいだけど、あえて漆喰(しっくい)を使う。やはり本物の壁の質感は違う」

−周囲の景観に気を配っていますね自家発電用に利用されている水車

「観光地は、まわりの環境も含めた全体の雰囲気が大事。いくら高級な旅館やホテルでも、そこに泊まり、窓を開けたときに洗濯物や車庫が見えたのではダメ」

 「雰囲気を損なわないよう、旅館のまわりの電話線は4年ほど前に地下に埋めた。県道から旅館に至るまでの林地の一部約33万平方mを10年ほど前に買った。

 近くに高原ホテルが建つとイメージが変わり、うちの商品価値が落ちてしまう。費用はかさんだが、魅力を保つための保険だと考えています」

−一方で生活面での快適さの向上には積極的です

 「トイレの水洗化にはいち早く取り組んだ。素朴な感じを大事にしたかったが、ある程度の清潔感はないと。今はウォシュレット化も検討している。若者の朝シャンの習慣を考え、試験的に内湯の1ヶ所にシャワーも設置しました」

−観光行政へのアドバイスを

 「ハコモノに金をかけなくても『ふるさと』のイメージを整備すれば客は来る。ただ、そのためには演出が必要だ」

 「例えば男鹿半島で見る夕日はきれいです。でも人はそれだけではなかなか足を運ばない。あそこは風が強くて寒い。それなら入道崎に雨風をしのげるロケーションを作ってはどうか。

 それも秋田の田舎をイメージできるような。漁師の家の縁側でじいちゃん、ばあちゃんにちょっと羊羹(ようかん)を出してもらう……それが秋田の風景だ。立派な露天風呂を作りゃいい、というものではない」
「ゴジラ岩にしても、そこにさりげない駐車場や、雨宿りできる場所を作るとか。今は何にも仕掛けがないでしよう」

−秋田の可能性を高く評価していますね

 「日本は豊かになった。いいものがいっぱいあり、だから人々はある意味で田舎を求めている。その点で秋田には良い素材が豊富にある。あとはそれを磨いてやるだけで、県外の客は感動してくれます」

 「日本のなかで『ふるさと』をイメージできるのは今や北東北だけ。県内の人はどこがいいのかわからないかもしれませんが、もっと自信を持っていいと思う」

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