白神郷地区展示施設の紹介



世界遺産・白神山地

 「遥かなる白神の峰々。
 悠久の昔
 神はこの地に
 豊かな恵みをもたらした。
 人々はうるおい
 感謝の祈りをささげた。」
(「森と海のシンフォニー」1999年八森町町勢要覧より)

 白神山地は、秋田県と青森県にまたがる約65、000haに及ぶ広大な山域の総称である。うち原生的なブナ林16、971haが1993年12月に世界自然遺産に登録された。白神山地の特徴は、奥が深く人跡稀な赤石川、追良瀬川、粕毛川などの源流域が集中し、分断されないまま原生的なブナ原生林が世界最大級で、ほぼ純林として分布している点である。このブナの森には、ブナ、サワグルミ、ミズナラなどの落葉広葉樹が分布し、白神山地全体が「森の博物館」となっている。


 「太古の昔、縄文人はブナの森とともに生きてきました。ブナの森は山菜、木の実、きのこなどの恵みをもたらし、枯れた木の葉の堆積は腐葉土となり、雨に流されて魚を育てる命の川となり、海に流れ込んで藻を育て、海の生命の糧となりました。

 その森が今、世界各地で次々に消えようとしています。人間は、産業革命以来、より豊かで便利な生活と引き換えに、地球の資源を消費し続けました。・・・
 
 しかし、今、ようやく人間はその愚に気づきはじめたようです。1993年白神山地が世界最大のブナ原生林として世界自然遺産に登録され、自然保護のシンボルとして世界的に注目を浴びました。
 
 豊かな生命を育み、数々の恵みをもたらし、そして現代人に心の安らぎを与えてくれるブナの森。私たちは、この貴重な財産を今後の世界に引き続き残していかねばなりません。」
(「森と海のシンフォニー」1999年八森町町勢要覧より)

 ブナの価値が見直されたのは、ごく最近のことである。
 かつては、ブナは人間にとって役に立たない木の代名詞であった。
 戦後、製紙業界は広葉樹を用いた製紙法を開発し、ブナも製紙に利用されるようになった。こうしてブナの受難の時代が始まった。

 人間が、ブナの持つ素晴らしい価値に気づいた時には、すでにまとまったブナ林は、白神山地など、ごく一部にしか残されていなかったのである。
 ブナは、世界的に見てもヨーロッパとアメリカ東部の3ヶ所しかない貴重な森である。しかも、欧米のブナは、大陸氷河の発達によって滅亡する植物が相次ぎ、植物相が極めて単純化してしまった。日本では、大陸氷河が発達せず、モクレンやトチノキのような原始的な植物を多数含んでいる。いわば、森そのものが「生き残り」といってもいいような存在である。

 貧弱なブナ林しかもたない欧米の学者から見れば、白神のブナ林は゛垂涎(すいぜん)の的゛なのである。白神山地は、多用な動植物の遺伝子をもつブナ林としては、世界最大の森なのである。

 その価値が世界的に認められ、平成5年(1993年)12月、屋久島とともに世界自然遺産に登録された。

(参考文献:「山の自然学」小泉武栄著、岩波新書) 
区 分 面 積
世界自然遺産地域 16,971ha
青森県 12,627ha
秋田県 4,344ha

ブナの森から生まれた「ブナ帯文化」

 ブナの黄葉が終わり、秋風が吹くと林床に落ち葉がうず高く積もる。その量は、1ha当たり2.8トンと言われている。ブナの森の腐葉土は、雪解け水や雨水を蓄え、貯水能力が高いことから、「緑のダム」と呼ばれている。
 蓄えられた水は、幾つもの沢から川へ流れ、白神山麓の広大な水田を潤し、人々の水道水としても利用されている。
 ブナの果実は、ツキノワグマやニホンザル、ムササビ、ヤマネ、ネズミなどの動物やカケスなどの鳥の餌にもなる。

 倒れたブナの木には、ブナハリタケやナメコ、シイタケなどのキノコがたくさん生える。春には、雪国に暮らす人々にとって欠くことのできない山菜が、鉄砲水のごとく土から顔を出す。ブナの森から流れる清流には、イワナ、ヤマメが踊り、春には天然のアユが遡上し、秋には、大量のサケが故郷の川へ帰ってくる。

ブナの落ち葉が幾十にも重なり合って、まるでスポンジのように柔らかい。その隙間や腐葉土は、虫や微生物の棲家となっている。さらに雪解け水や雨水を蓄える。 ブナの森から涸れることなく、湧き出す清冽な流れ。これが白神山麓の生活と暮らしを支える源である。
ブナの風倒木にビッシリ生えたブナハリタケ。白神の秋は、厳しい冬をしのぐ山の幸でにぎわう。 長い沈黙の冬が終わり、森の雪が解け出すと、山の野菜が腐葉土から顔を出す。山村に生きる人々は、田植え前の一時を狙って、不足がちな緑黄野菜を補ってきた。


 白神山地のブナは、今から8000年以上前にあったことが、調査で明らかになっている。太古の昔から、狩猟採集に生きる縄文人にとって、恵み豊かな森は、最高の定住の場であり、縄文文化の隆盛をきわめた。

 ブナ帯と呼ばれる奥羽山脈、出羽丘陵、白神山地など、東北の山峡には、熊やカモシカなどの狩猟を生業とした「マタギ」と呼ばれる人たちがいた。狩猟採集の文化は、縄文以来連綿とブナの森に引き継がれてきたのである。

 彼らは、自然に逆らわず、あくまで自然に溶け込んで、狩猟のほか、農業や炭焼き、キノコや山菜採り、川漁をしながら、四季を通してブナの恵みを享受してきた。そして、山の神と田の神をかたくなに信じ、食と農から民俗文化に至るまで多様な文化を生み出し、代々受け継がれてきた。こうしたブナ帯の森に生きる生活・暮らしを総称して、「ブナ帯文化」と呼んでいる。

白神のブナの森。ブナの森は、山の幸、田畑の幸、川の幸、海の幸を育む「生命の森」であり、「母なる森」と呼ばれている。 早春の熊狩りに始まり、山菜、田植え、たけのこ採り、夏は川漁、秋は、収穫、きのこ、初冬の熊狩り、冬は、ウサギやヤマドリ、炭焼きなど、自然のサイクルに合わせて、白神の森と水に依存した心豊かな生活・暮らしがあった。こうした自然とともに生きた山村文化は、近代化の中で急速に失われつつある。その共生の文化を見直し、次の世代へ引き継ぐことが白神郷地区のテーマである。


 白神山麓に位置する八森町、峰浜村、能代市、二ツ井町、藤里町の1市4町村は、古来より白神の森と水の恵みを受けて発展してきたことから、地区全体のテーマを「白神山地の森と水に育まれた共生の文化の保存と伝承」としている。

(参考:「白神山地、ブナの森から」嶋 裕三著、国土社)
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