イタリア スペイン


In 2000 Italy Spain agriculture farm village circumstances

1.イタリア編 Italy travel

文責:農地整備課 下山 昇
2年くらい前の写真です。

平成12年8月27日〜9月7日、(財)日本農業土木総合研究所主催の”第8回海外農業農村開発技術研修”に参加し、「EUの条件不利地域対策と事業制度」というテーマで、イタリア・スペインを視察してきました。その最新情報をお伝えします。
イタリア北部ポー川流域の”20ha区画水田”
  
20ha区画の水田に水口は1ヶ所。耕作農家の話では、1日で灌水できるそうだ。???
イタリアにおける条件不利地域対策

シャテロン町のパンフレットより

左上の紫色に囲ったところが
シャテロン町
シャティロン町の位置
アルプス山脈の麓に位置し、アオスタ渓谷の下部を高速道路とポー川上流の支流が、絡み合いながらスイス国境へと続いている。町の標高は550mくらいである。氷河によって削られたと言われている石灰岩の岩肌が随所に見られ「自然の博物館」といった感じである。また、この街道はナポレオン・ボナパルトがイタリアに進軍したときに通ったとも言われている。
古城群と集落群
道路沿いの小高い丘の上や険しい山の中腹には、13〜14世紀に造られた古城が数多く点在している。この古城群は戦のための「高速情報通信施設」として造られたもので、お互いに見通せる位置にあり、鏡を使ったりして情報伝達を行っていたそうである。集落は河川より少し高いところから山の急斜面まで点在している。
昔からヨーロッパの交通の要所として、また戦略として古城群や集落群が形成されていったものと考えられる。
河川の整備
この地区の小河川は意図的に環境に配慮したのか、経済性からなのか分からないが、スケッチのような「巨石張り」の整備が行われている。もともと巨石がいたるところにあることから、こうした整備も地域の風景に溶け込んで違和感を感じさせない。
ブドウの栽培
地域の山は石灰岩であり、ブドウには最も適した土壌である。山の急斜面に張り付くようにブドウ畑が広がっている。
町の中心部
 高速道路よりもかなり高い位置に町の主要道路が整備されており、地形条件から道路幅は極めて狭い。避暑地からの帰省のためか、いつもこうなのか分からないが、車がひっきりなしに走っている。地形が急峻なため、 この道路には深さ100m位の谷を超える橋があったりする。家屋は崖に張り付くように密集して立ち並び、大きなスーパーはないが、小さな店がたくさんあり賑わっている。日本の地方部では廃れてしまったところが多いが「駅前商店街」といった感じである。若い人たちもたくさんおり、こんな山村でどうしてこれだけの活気があるのか不思議な感じがした。
人々はどんな仕事をし生計を立てているのか、また、行政はどのような施策をとっているのか、エンテ・コムニタ・モンターナの代表者セオドレ・サンドレ氏に説明してもらった。

エンテ・コムニタ・モンターナ
州の中に8つの支部があり、エンテ・コムニタ・モンターナは州では最大の支部で、12の市町村を担当している。わが国で言えば、県庁の出先機関の総合事務所のようなもので、人が絶え間なく出入りしていた。ここでは、社会福祉・水道整備・山道整備・学校・スクールバス・観光の窓口と、地域に密着した幅広い業務を行っている。

<バルドスタ州の条件不利地域対策>

地域の農業
ワイン用のブドウやフルーツ・蜂蜜の生産が多く、酪農も盛んである。フォンティーヌというチーズを作っている。地形的に平場に対して不利なので、その分品質で勝負し「高品質少量生産」を基本にしている。専業農家もいるが、農家の家屋とその農産物を利用したグリーンツーリズムも盛んであり、農家の副業として定着している。若い農業者たちがCOOPを設立し、高品質のワインを作っている。

条件不利地域対策
この地域は100%山岳地域であり、全地域が条件不利地域の指定を受けている。かんがい・道路整備・畑の拡大等に対して、50〜95%の補助金が支出されている。残りは個人負担である。特に酪農に対する補助が多く、乳牛の改良に対しても補助金が支出されている。また、農家の家屋の修繕に対しても補助がある。これは、州が農村景観の保全やグリンツーリズムを推進しているためである。EUの補助条件に従い農薬・肥料の規制を行っている外、州独自の条例(1987年8月12日70番)により、土地の交換や牧草の刈取等の農作業に関する規制も行っている。補助の金額は、200〜500ユーロ/ha(である。この地域は農業のみでなく「農業+観光」を基本施策とし、農業は利益追求だけではなく、景観や環境も重視した政策を行っている。

<考察>

この地域は条件不利地域にもかかわらず、農業後継者問題や耕作放棄地・環境問題といった一連の条件不利地域問題が生じていなく、農業・農村が適切に維持されている。その理由について考えてみる。

高品質少量生産農業
近年の若い人々は高学歴が災いし、農業に従事したがらない傾向が世界的に広まっている。バルトスタ州では一般的な農業では平野部に負けるので、高品質少量生産を行っている。そのことが若い人たちの研究意欲を掻き立て、また高収入にもなり就農へとつながっているのではないかと推測される。

条件不利地域対策
平場地域との価格競争では、如何ともしがたいものがある。若い人たちは当然給料の高い方へと流れていく。この地域では、200〜500ユウーロ/ha(18,000〜45,000円/ha)の補助金が支払われているが、どれくらいの効果をもたらしているかは分からない。しかし、こうした補助無しにはバルドスタ州においても地域の衰退は避けられないと考えられる。

環境対策
環境対策は、農薬・肥料等の規制と、巨石張りの河川整備のような景観の保全の2面がある。
農薬・肥料の規制はEUの政策で、各国及び各農家も十分承知しており、またEUの監視も厳しいので、現在では違反している農家はないと考えられる。有機質肥料の野菜等は、安全な野菜として地域農産物の"売り"とすることもできるが、この種の環境問題は事件・事故が起きると悪いイメージが定着し、足腰の弱い地域農業は大打撃を受ける危険性がある。
景観の保全については地域の特異性があり、その政策は地域の人々に委ねられ、地域の人々のセンスが重要となってくる。バルトスタ州では巨石張りの河川整備を初めとして、農家の家屋修繕への補助等、地域の環境を十分に配慮した町づくりを行っている。
これらの州の環境政策が十分に機能し、農産物の販売促進や観光へと繋がっている。

グリンツーリズム
州では前述したように「農業+観光」が施策の柱となっている。州には古城群等の歴史的建造物を始め、氷河期に削られた岩肌・高品質なワイン・フルーツ・蜂蜜といった地域資源がある。これらを有効利用しグリンツーリズムを進め、農家収入を向上させている。

<まとめ>
バルトスタ州は、"田舎の山岳地帯"である。それがこれだけの活気を呈し、若い人たちが情熱を持って農業に取り組んでいるということは、地域の人々の努力や土地への愛着はもちろんのこと、州の政策が適切であるからと考えられる。
州の政策を検討してみて、条件不利地域で農業・農村を維持・発展させるためには、直接支払い制度だけでは不十分であり、地域でどのような農業ができるか常に検討し、環境を重視し、ときには観光も取り入れる等の地域に即した多面的な施策が必要であると思われた。
 我が国においては条件不利地域対策が、「直接支払制度」として今年度から始まった。今後さらにこの対策が「環境対策」へと続き、多面的な施策が展開される必要があると思われる。

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