田んぼの環境調査1 その2

 
秋田県河辺町大沢、赤平地区(中山間地域の水田地帯)
 ふるさとのイメージが色濃く残る中山間地域・河辺町大沢地区と赤平地区。この田んぼ周辺で、どんな生き物や植物が生息しているのだろうか、一日がかりで調査を行った。この記録は、環境に配慮した農業農村整備を進めるために、秋田総合農林事務所土地改良課の職員が自ら調査を行ったものである。(上の写真は、補植作業に忙しい田んぼの傍らでザッコ調査を行っているところ。まるで童心に帰ったように見える・・・)

「耕地は人が作った環境である。だから自然に戻せば、そこはより豊かな自然環境に生まれ変わると思われがちである。ところが谷津田のような小規模水田が各地で放棄され、自然に戻るようになると、メタガやタガメなど、かつて農村でごくふつうに見られた生物が絶滅の恐れがあるほど減少してしまった。水田は放棄すると生物多様性は守れなくなるのである。」(「耕地生態系と生物多様性」守山 弘)
 田植えを終えたばかりの水田に、よく手入れされた庭木や屋敷林が映る大沢地区。岩見川右岸の山手に広がる約20haの田んぼで調査を行った。
 田んぼを流れる用水路。田植えのために岩見川から取水された水は、底まで見える透明度。春の陽射しにキラキラと輝く様は、幼い頃見た小川そのものだった。

 田んぼ、ため池、用水路といった稲作のために作られ、維持管理されてきた人工的な水界を水田用水系と呼んでいる。こうした用水系は、湖沼や河川と違って、春の田植えから秋の収穫まで、水の流れの速さ、水量、水温などの水環境が多様に変化する。この水環境の変化は、ある一定のリズムを持ち、稲作とともに1年をサイクルとして繰り返されている。田んぼ周辺は、紛れもなく二次的自然だが、近年生物多様性の宝庫として注目されている。
 左手に苗の補植をしている人が見える。山側を流れる水路で、下流に網を置き、上流から追い込み魚の捕獲を行った。昔は、杭に古い下駄を釘で打った「エブリ棒」と呼ばれる道具を使って追い込んだものだが、人間の足では効率が悪かった。(後日、これに懲りて、大工さんに頼み制作してもらった)
 「何してるんだ」と農作業をしている人たちに不思議がられた。「ザッコの調査です」と答えると、「昔に比べりゃ何もいねぇべ」との答えが返ってきた。それでもいろんな生き物達が網の中に入ってくれた。
 アメンボ・・・池や小川、流れが緩い田んぼの水路などに生息。水面に落ちた昆虫などを捕らえて体液を吸う。長距離の移動をする時は、植物や杭などに登って羽を乾かしてから飛ぶ。
 アブラハヤ・・・一般には河川の中・上流域に生息しているが、河川から取水した水に紛れ込んできたものではないか。結構たくさん捕れた。体のほぼ中央を黒い縦条が走っている。産卵も近いのか、やけにお腹が膨れた個体だった。雑食性で、淵や平瀬の底層にいて、底性動物や流下物、付着藻類を食べる。山間部に生息しているものは、落下昆虫なども食べる。この他にドショウがたくさん捕れた。
 ふるさとのイメージを残す水路だったが、魚類は意外に貧相だった。地元の人に聞くと、除草剤を使ってから魚類は少なくなったという。フナやタナゴは一匹も捕獲することができなかった。こんなはずはない、ということで、午後から対岸の赤平地区で再度捕獲調査を行った。
 タニシ・・・タニシを秋田ではツブと呼ぶ。昔は、石で貝殻を叩いてつぶし、身を取り出してから酒味噌あえなどに調理して食べた。かつては、フナ、ドジョウと並び農村の貴重なタンパク源だったが、今ではほとんど食べる人がいなくなった。
 コオイムシ(写真右下の背中に卵を背負っているムシ)・・・オスが卵を背負って世話をする水生カメムシ。卵が孵化するまで約1ヶ月間ほど世話をする珍しい生態をもつ。池や沼、田んぼなどで見られる。小魚やカエル、貝などを捕らえて液体を吸う。
 ツチガエル・・・俗称「イボガエル」と呼ばれ、暗褐色で背中から足にかけて大小のイボ状の隆起がある。いじめられると、独特の臭いを出す。緩い流れの小川や田んぼ、池沼などに生息している。繁殖期の鳴き声は「ギーコ、ギーコ」と聞こえる。  ヤゴ・・・トンボの幼虫。赤トンボは、夏のはじめに田んぼで羽化し、涼しい山の高原に飛んでいく。秋になると、また田んぼに帰って産卵する。田んぼの周りには、トンボやホタル、タガメ、ゲンゴロウなど、水と関係の深い昆虫が多く生息している。
 トノサマガエル・・・ふるさとの田んぼや小川に生息する代表的なカエル。5〜6月頃、水田や浅い池に産卵する。1卵塊中に2000〜4000個もの卵が含まれている。トノサマガエルは、ジャンプ力に優れ、昼間は、ひと飛びで水路に飛び込める草むらにいることが多い。後ろ足の水かきが発達し、遊泳も巧みで「カエルの殿様」と呼ばれている。
 水路の土手に生えた野の植物。アヤメ、ギシギシ、ウシハコベ・・・

 アヤメ・・・ハナショウブと違って湿った所には生えず、適湿な草はらを好む。かつては水田の土手などに多く見られたが、最近は少なくなったと言われる。
 スイパ・・・その名のとおり茎葉にショウ酸を含み、酸っぱい味がする。かつては、塩をつけてよく食べた。田んぼ周辺の畦道や土手に多く群生し、田植え頃の田園空間の重要なアクセントになっている。草刈によってよく管理された道端は、キンポーゲとスイパ型の天下と言われている。
 タニウツギ・・・名前のとおり谷に生える山野草だが、山村の道端に咲いていた。タニウツギは、雪の多い日本海側に限って分布している。しなだれて咲く花の盛りが見事で、園芸植物として庭に植えられている。
 アマドコロ・・・ナルコユリより明るく乾いた環境を好み、明るい二次林の下や肥沃な草はらに生える。写真は、休耕田そばの道端に生えていた。
 セリ・・・休耕田の一面に生えたセリ。春の七草の筆頭にうたわれた野草で食べても美味しい。特有の香りと小気味よい歯ざわりで、栽培もされている。秋ゼリは食うな、という諺があるが、これはヒルの卵が付着しているのを恐れてのことらしい。
 シロツメクサ・・・日本には「詰め草」の名のとおり、箱荷にパッキンとして偶然に入ってきたと言われる。草地造成のために、多量の種子が導入され、道端などに広く帰化した植物。
 ムラサキサギゴケ・・・田の畦以外では、ほとんど見ることができない草。春の陽光を一杯に浴びて、紫の花むしろを広げているように咲く。花の格好が、シラサギが翼を広げたような姿に似ていることからサギ、地面にはいつくばる様子からコケと名がつけられた。
 ノミノフスマ・・・日本土着の雑草。湿潤な日本の風土に適し、肥沃で適湿な畑はもちろん、春の水田に一面に生える。花弁は5枚だが、先が深く2裂しているので10枚に見える。
 キンポウゲ・・・適湿で肥沃な土壌の深いところに最もよく生える。キンポウゲの咲くところは、人間と共存する二次的自然の代表と言われている。土手や畦の草刈回数が減ると、ススキのみが目立つ単調な群落へと変わってしまう。言い換えれば、農家の人たちがよく手入れをしている証拠でもある。

田んぼの環境調査1 その2