世界はコメを待っている 秋田さきがけ 2000年9月29日付け

真勢 徹(秋田県立大学短期大学部教授)

 増え続ける世界人口、必要な食料、そして地球環境の三者をどうバランスさせるかは、二十一世紀における最大の懸案事項である。だが、世界の農地面積十五億ヘクタールは現時点でもはや適正値を越えており、今後はむしろ漸減の方向をたどっていく。つまり農地の面的拡大による食料増産は望めない。

 一方、化学肥料や農薬漬けの農業(いわゆる多投入型農業)をさらに進めて単位収量を上げることは、世界の農地や資源環境をさらに悪化させる結果となる。

 食料配分を見直すという考え方もある。なぜなら現在、先進国では一人当たり年間六百四十キロの穀物を消費しているが、途上国のそれは二百三十キロにすぎない。その原因が先進国での動物性夕ンパク中心の食生活にあることはいうまでもない。

 栄養過多に悩むアメリカ人女性が脂肪吸引手術に使う金は、ラオスの国家予算の五倍、約七百億円に上るという笑えない事実さえある。単純な考え方をすれば、肉食を控え、穀物から直接栄養を摂取すればよいことになる。そうすれば一人当たり約三百キロの穀物を世界の人々に均等配分できる。しかし食は文化そのものであり、短時日のうちに食生活を切りかえるというのは非現実的な思考といわざをえない。

 このように八方ふざがりな状況を打開する切札として、コメの持つ潜在的な可能性に注目する必要がある。あまり知れていない事実だが、麦やトウモロコシなど他の主要穀物に比べた場合、コメには単位面積当たり三、四倍の人口扶養力が期待できる。世界のコメの平均収量(一ヘクタール当たり3.6トン)は麦(同2.5トン)の約一・四倍であり、そのほぼ全量が直接食用に供されるのに対して、他の穀物の半分は飼料用に消費されていること、また主要穀物中、コメだけが二期作可能であることなどを累乗して得られる効果である。

 これを念頭に、世界の水田適地一億ヘクタール(世界の農地の十五分の一)を厳選し重点的な技術と資本の投入を行えば、二〇二五年時の途上国人口約七十億人に百キロのコメを供供できることになる。

 しかも、水田は水を張ることによって土壌の汚染を防ぎ、そのことが数百数千年にわたるコメの連作を可能にしてきた。いわばアジアの風土に最も適した資源循環型の農業が水田農業である。このようなアジアの知恵の結晶である水田農業が、世界の人口、食料、環境問題を解くカギとなることを期待したい。

 なお、コメに関する世界のシンクタンクである国際稲研究所(IRRI)は、数年前に二〇二五年の世界のコメ需要を七億六千四百万トン(モミ換算)と発表したが、この数値は昨年八億トンに上方修正された。現時点での世界のコメの生産量が五億五千万トン弱であるから、これからの二十五年間に約一・五倍の増産が必要となる。文字どおり世界はコメを待っているのである。