生きもの調査1 生きもの調査2


秋田市四ツ小屋、古川(日本の重要湿地500)
 仁井田堰土地改良区(上村清助理事長、組合員921名)が管理する古川及び萱野堰で「田んぼの生きもの調査」を行った。調査は、秋田総合農林事務所土地改良課と仁井田堰土地改良区の合同で行った。
多くの釣り人たちで賑わうヤブレ沼、この下流部を流れる水路が古川である。古川は、秋田平野湖沼群の中に位置し、アサザ、ミズアオイ、バイカモなど貴重な水生植物が生育している。日本の重要湿地500に選定されているだけに、「田んぼの生きもの調査」では、大きな期待がかかる場所でもあった。
 岩見川から取水された水は、仁井田堰を通り武左衛門堰へ。上の写真は武左衛門堰から取水されたヤブレ沼脇の用水路。底まで見える透明度の高さがお分かりだろうか。
 ヤブレ沼下流の古川・・・田んぼの中をゆったり流れる古川。排水路だが、透明度が高く、たくさんの藻が生えている。農家にとっては邪魔な藻だが、魚にとっては格好の棲み家だ。
 真夏日の天候で水温は22度。水質の目安としてCOD(科学的酸素消費量)を測定すると5ppm未満。田んぼを流れる排水路としては、比較的良好な結果が出た。ちなみに3ppm以下だとサケやアユが棲める水質を示している。
 藻の周辺を群れをなして泳ぐ魚が見えた。下流に網を設置し、上流から特注の追い込み棒(地元ではエブリ棒と呼ぶ)で追い込んだ。しかし、逃げるのが素早く、網の近くまで来るとすぐにターンして逃げた。あの群れの魚は何だ?
 何と群れの正体はアユだった。岩見川から仁井田堰、武左衛門堰を下ってやってきたのだろう。このアユが群れをなして生息しているということは、かなり水質が良好であることを示している。
 調査をしていると、自転車に乗った地元のおばさんが「あや、懐かしい!、楽しそうだなやぁ」と、盛んに叫びながら生きもの調査を見ていた。なかなか魚が入らない網の中を覗き込み、決定的な一言。「ヘタクソだァ〜。ヘタクソだァ〜。それだばぁ、魚に逃げられるべぇ」と言われてしまった。
 再度気を取り直し、懸命の作業が続いた。最初は、追い込み人と網を上げる人との呼吸が合わず、魚に逃げられるケースが続いたが、だんだん上手くなってきた。後半は、小魚たちをたくさん捕獲できるようになった。
 捕獲したドジョウとモツゴ。

 田んぼの魚と言えば、ドジョウ、フナ、メダカ、ナマズが代表格だろう。この古川には、これら全ての種が生息していた。ドジョウは、小動物や藻類を食べる雑食性。産卵は春に田んぼで行う。腸以外に皮膚からも呼吸ができ、渇水で干し上がっても泥の中に潜って生き延びることができる。冬は泥の中で冬眠するといったユニークな生態を持っている。

 モツゴ・・・口元から尾ビレの基部まで走る黒い帯が特徴で、口先は細くすぼまり受け口になっている。主に水底近くで暮らし、藻類や小動物などを広く食べる雑食性。絶滅危惧種1A類のシナイモツゴとの交雑が問題となっている外来魚。
トミヨ・淡水型・・・絶滅危惧種2類。鱗板の配列が連続しているものをトミヨ、不連続のものをイバラトミヨと分類していたが、最近は「イバラトミヨ雄物型」「イバラトミヨ汽水型」「トミヨ・淡水型」の3種に分類されている。 ナマズ・・・夜行性で、底生動物から小魚、カエルまで貪欲に食べる。5〜6月、田んぼなどの浅瀬に集まり、オスがメスの体に巻きついて産卵を促す。
 古川にたくさん見られたアメンボ・・・池や小川、流れが緩い田んぼの水路などに生息。水面に落ちた昆虫などを捕らえて体液を吸う。長距離の移動をする時は、植物や杭などに登って羽を乾かしてから飛ぶ。
 タニシも多く確認・・・カワニナと並びホタルの幼虫のエサにもなっている。ホタルは成虫になると、水を飲む以外何も食べない。
 捕獲された田んぼの生きものたち・・・ギンブナ、ドジョウ、ナマズ、メダカ(準絶滅危惧種)、トミヨ(絶滅危惧種2類)、ヤリタナゴ(準絶滅危惧種)、マルタ(絶滅危惧種2類)、アユ、トウヨシノボリ、スズキ、二枚貝、タニシ、トノサマガエル、アマガエル、コオイムシ、アメンボ、ハグロトンボ
 ヤブレ沼に立てられた看板。よく見ると「環境整備・・・オオクチバスの駆除等の計画をしております・・・お一人様二千円のご協力をお願いできれば幸いです」と書かれていた。地元の人に聞けば、オオクチバスが密放流されて以来、バス釣りの人たちも数多く見られるようになったという。残念なことにルアーの残骸も見られた。

 日本の重要湿地500に選定された古川は、希少水生植物だけでなく、希少淡水魚が数多く生息しており、調査すればするほど水田生態系の豊かさが実感できる貴重な場所だ。それだけにオオクチバスの存在は、残念でならない。早急な駆除を望みたい。
 田んぼに囲まれたヤブレ沼でヘラブナ釣りを楽しむのどかな光景。
 古川下流部、排水路の幅は10mもある。
 問い:舟に乗って何をしているのでしょうか?
 古川排水路に巨大な藻が繁茂している。この藻が次第に成長すると、流れは淀み、水位が上昇してくる。周辺の田んぼや宅地スレスレまで水位が上昇してくると危険信号だという。このまま何もせず、大雨に見舞われれば、どうなるのだろうか。周辺の宅地や道路、農地の排水が古川排水路に一気に流れ込んでくる。しかし、繁茂した藻に阻まれてスムーズな排水ができず、周辺の農地や宅地に洪水被害をもたらす。これを防ぐために、仁井田堰土地改良区では、毎年1〜2回、舟を使って7キロにわたって密生した藻の刈り取り作業を行っている。
 古川の藻を舟で刈り取る作業が始まったのは、今から約30年前(それ以前は、もちろん人力刈り取り)。舟は、その時以来の旧式エンジンで、古いコンバインのエンジンを改良したものだという。写真のV字型の金属は、藻を刈り取るカッターで、前後に動かしながら藻を刈り取っていく独自の仕掛けだ。
 沈めたV字カッターを舟で引き、前後させながら藻を刈り取っていく。V字カッターの有効幅は2m弱、水路の幅は10mもあるため、全て刈り取るには4〜5回も往復しなければならない。7キロに及ぶ区間を全て刈り取るには1週間もかかるという。密生した藻によって淀んだ流れが、こうした刈り取り作業によって再び流れが蘇る。こうした維持管理作業は、洪水を未然に防止するだけでなく、水辺の生物種が最も豊富になることが経験的に知られている。

 「かく乱は生態系の貧化をもたらすと思われがちである。ところが生態学の分野では、だいぶ前から、中程度にかく乱される環境では、生物種が最も豊富になることが経験的にわかってきた。この考えは中程度かく乱説として多くの生態学者に支持されている」(「耕地生態系と生物多様性」守山弘) 
 平成14年3月27日、地球環境保全に関する閣僚会議において決定された新・生物多様性国家戦略には、里地里山等中間地域の項で次のように述べている。

 「里地里山は、様々な人間の働きかけを通じて環境が形成された地域であり、集落を取り巻く二次林と、それらと混在する農地、ため池、草原等で構成される地域概念です。・・・水田耕作や水路維持管理の方法、二次林の管理方法など、地域ごとに異なる伝統的な管理方法に適応して多様な生物相が形成されてきました。

 ・・・農山村に定住した人々が、自然と対立した形ではなく順応する形で自然に働きかけ、上手く利用することによって、多様な生物を育むことのできる環境が形成され、自然と人間の共生関係が維持されてきました。農山村の人々の暮らし、営みの長い歴史の中で、様々な知識や技術も培われてきました。伝統的な知識や技術に学びつつ、こうした自然と人間の共生関係を回復していくことが大切です。」

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