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 平成15年9月5日〜6日、第9回全国棚田(千枚田)サミットが岐阜県恵那市で開催された。全国の棚田を有する市町村、棚田保全に取り組む団体・個人など約800人が参加。棚田100選の一つ「坂折棚田」(上の写真)で学んだ小学校、高校生による事例発表や「伝統的文化景観としての棚田」「直接支払制度による中山間・棚田地域の再生」などをテーマにした6つの分科会、坂折棚田の現地視察などが二日間にわたって行われた。
棚田100選の一つ「坂折棚田」
 「急峻な山肌に組まれた堅牢な石垣群が古代遺跡を思わせる棚田(千枚田)。・・・なだらかに重なり合い曲線美を織り成す大小の棚田。天にも届くほどに幾層にも重なり合い千枚田とも呼ばれる棚田・・・その景観の美しさは゛田毎の月゛などと表現され四季折々に日本人の心情に親しまれてきました。・・・棚田は決して強大な権力の力によって出来たものではなく、名もない人々の手によって、日本の農の歴史と共に悠久の昔から築き上げられた゛農民のピラミッド゛ともいえるものです。こうして生まれた棚田は、日本の水田の1割を占め、稲作文化を語るには欠かせないものです。・・・」(全国棚田(千枚田)連絡協議会設立趣意書より抜粋)
棚田とは・・・
 秋田県男鹿市の棚田・・・秋田県の棚田面積は2,807ha、全水田面積122,285haに対して2.3%のシェア。

 棚田とは「傾斜が1/20以上(20m進んだ時に1m上がる傾斜)にある階段状の水田」で全国に22万ha、全水田面積の約1割を占めている。棚田は、特に西南日本に多く、その2/3を占めている。東北の棚田は、畦が土で作られているものが多いのに対し、西南日本の棚田は傾斜が大きく石積みになっているものが多い。

美しき棚田・・・日本人の心の原風景
 秋田県男鹿市「美しき棚田」・・・数多くの水田が温かみのある曲線を描き、なだらかな傾斜をなす棚田。夏が深くなるにつれて稲の緑は増し、赤とんぼが舞う秋には黄金色の輝きを放つ。先人たちが長い年月をかけて山を切り拓き、今日まで守り続けてきた棚田は、治水利水の上で重要な役割を果たし、生物の多様性を守り日本の国土保全、美しい景観、稲作文化を語る上で無くてはならない貴重な遺産であり、「日本人の心の原風景」とも形容されている。
 坂折棚田写真コンテスト入賞作品(秋の曲線、撮影:曽我孝行)

 日本の自然、文化に魅了され、74年から定住している英国人写真家ジュニー・ハイマスさんの写真集「たんぽぽ」(NHK出版)には、棚田の美しさを次のように記している。
 「何百年も前に拓かれた棚田は、原始的な力強さや生命力を漂わせている。そのような古い歴史を持った田畑は゛神聖な土地゛と呼ぶべき場所だと思う。その棚田自体が、現在と過去の・・・人びとの記念碑であり、単なる農地を越えた日本の社会的、歴史的遺産だと思う・・・」
連鎖的に広がる棚田の耕作放棄
 耕作放棄された棚田(秋田県男鹿市)・・・手前の田んぼ数枚と赤い屋根の農家周辺の棚田は、残念ながら耕作放棄されていた。美しき棚田を維持するには、大きな労働負担が伴う。棚田の農道は狭く、一枚の田んぼの面積も小さい。自由に運搬車や農業機械が使えないため重労働を強いられる。それに追い打ちを掛けるように、高齢化が急速に進んでいる。その結果、山間部に点在する棚田を中心に耕作放棄が連鎖的に拡大している。どうしたら棚田を守れるのだろうか。「棚田とともに生きるふるさと-整備と保全-」をテーマに熱心な意見交換が行われた。
第9回棚田(千枚田)サミットIN岐阜県恵那市
 サミットの会場となった恵那文化会館の広場で、歓迎アトラクション「大井恵那峡とんとん節」が披露された。心温まる歓迎に、全国から集まった参加者たちから大きな拍手が送られた。
 坂折棚田の写真展示・・・恵那市在住の写真家・下島弘行さんの写真「美しき悠久の棚田」や「坂折棚田」写真コンテスト入賞作品など、四季折々に美しい景観が広がる文化遺産・坂折棚田の写真が多数展示されていた。
 オープンセレモニーは、棚田の伝統行事「雨乞いの儀式」。神事は、全員、伝統的な野良着に蓑笠を被り、背中にワラで作ったケラ、足には草履を履き、昔の百姓そのままの姿で厳粛にとりおこなわれた。手前に持っているのは水の神様「龍」である。条件が不利な棚田は、重労働だけでなく、「水」に苦労した歴史がしのばれる。
 全国棚田(千枚田)連絡協議会・本多利夫会長のあいさつ要旨・・・「昨年の鴨川サミットでは゛棚田と都市・保全と共生゛をテーマに゛大山千枚田゛を中心とした首都圏で初めて開催し、棚田の持つ多くの役割と大きな効果を、全国に向けて発信させることができました。今年は、棚田の整備と保全という難しい問題を検討することにより、多くの方々が棚田に関心を持ち、保全活動がより一層推進されることを期待します。」最後に、今後も、棚田保全の必要性を広くアピールしながら、直接支払い制度の継続・拡充を強く訴えた。
基調講演「中山間地域の水田営農確立を目指して」
 大分県竹田市九重野地区担い手育成推進協議会・後藤生也会長が講演。全国に先駆けて中山間地域等直接支払制度による「集落協定」を結び、奥備後そばの生産や炭焼き体験場、水車小屋の建設など、交付金を活用した多様な集落営農を紹介。将来は、集落丸ごと法人化をめざしているという。最後に「かつては゛物言わぬ農民゛などと言われていたが、それは時の権力に抑えられていた時代の話。これからは、反対のための反対ではなく、中山間地域の実情を広く理解してもらうために゛物言う農民゛にならなければならない」と語った。
分科会4:生物多様性と棚田(座長:宇都宮大学教授水谷正一)
 話題提供1・・・「谷津に生きる生物」と題し、東京農工大大学院の柿野さんが栃木県市貝町の谷津田周辺の魚類、両生類、貝類を調査した事例が報告された。秋田では絶滅危惧種1A.類にランクされているホトケドジョウが多数捕獲されたとの報告に驚かされた。ドジョウの仲間だが、浮き袋が特に発達しており、普通の魚と同様中層を遊泳できる特徴を持っている。水のきれいで、かつ緩やかな流れのある細流の用水路などに多く見られる。

 魚類・・・谷津ごとで魚類の構成に違いが見られたが、トジョウ、シマドジョウは非かんがい期、かんがい期で変動が少ない。しかしホトケドジョウは、非かんがい期になると個体数が少なく、分布が点在している。かんがい期になると、個体数が増加し、谷頭に向かうほど個体数が多くなることが分かった。つまり稲作の年間サイクルによって、ドジョウ、シマドジョウは変動が少ないが、ホトケドジョウは、個体数と分布に大きな違いが見られた。
 両生類・カエルも谷津ごどで生息する種類が異なっていた。カワニナ、オオタニシ、マルタニシ、マシジミ、ヨコハマシジラガイなどの貝類も、谷津ごとに優占する種類に違いが見られた。結論として、それぞれ谷津ごとに生物的特徴が異なっており、これが谷津田の生物多様性の特徴を示しているとの報告だった。
 話題提供2は、岐阜県恵那市飯地地区のゲンジボタルを中心に「棚田の生物保全」について報告された。上の写真は、整備前の沢尻川で多様な生き物たちが生息していた。しかし、17.6haのほ場整備に伴い、小河川の改修で生息地の一部が壊滅するため、整備区域外の山裾に、生態系に配慮したホタル水路を新たに作り、旧水路の動植物たちを捕獲・移植する活動が始まった。生物保全活動を指導したのが自然学総合研究所の河合さん、生き物の捕獲・移植作業は地元住民で組織した飯地高原ほたるの会の皆さんが中心になって行われた。
 山裾に新設されたホタル水路は、延長365m、地形に合わせて蛇行させている。水路形状に変化をもたせるため、掘削した法面の整形は行っていない。また、現地で採取した巨岩も可能な限り活用した。自然石は空積みし、水路底に砂利を厚さ15cmを敷く。水路の維持管理兼観察路として、右側の水平部は幅50cmから1.5mと広いステップを設置している。
 左上の「石積み」・・・下に間伐材の丸太を敷き、自然石は生き物が生息しやすいようにオーバーハングになるように施工。
 右下の「落差工」・・・落差工で水中の溶酸素を確保するために設置。
 生き物の捕獲は、旧水路700m間の水を抜き、住民参加で行ったが、3日間を要した。移植した生き物は、ホタル、コヤマトンボ、オニヤンマの幼虫、カエル類、ドジョウ、シマドジョウ、イモリ、イシガメ、ドブガイなど。
 住民、業者、関係者が3日間で総勢252名の参加で水生生物の「引越し作業」が行われた。捕獲量は、ドジョウ1240匹、イシガメ27匹、オニヤンマ幼虫323匹、カワニナ約13万匹・・・。生態の早期復元を目指し、34種の生物を丸ごと新しい水路に移動した。大人も童心に帰って実に楽しそうだったという。
 ホタルの養殖には、その餌となる小さなカワニナの幼虫がたくさん生息していることが絶対条件。カワニナの餌として、野菜くずを与えている事例もあるが、保存が効かず、水質が汚れる心配もある。そこで味噌玉、餅、柿ガラを月に1回から2回程度、水路で餌まきを行った。
 平成15年6月、見事に120匹のホタルが乱舞した。そのしばらく前には、幼虫も確認していた。この成功の陰には、地元の方々による水路の維持管理、カワニナの餌まきなど多大な功績があった。そんな苦労があっただけに、地域住民の人たちはホタルの乱舞に歓喜し、見物者で大いに賑わったという。
 座長の水谷教授は、棚田の生物多様性を探るために次のように呼び掛けた。「棚田周辺には、きれいな水にサワガニが生息しています。これを唐揚げにして一杯やりたいと思うか、それとも食べずに保護したいと思うだろうか。まず唐揚げにして一杯やる視点で、昔はこんな生き物、野草を食べたといった話を皆さんから聞きたい」
 雪国秋田では、春一番、棚田の斜面にフキノトウが一面に顔を出す(秋田県阿仁町)

 各地からいろんな事例が報告されたが、ブナ帯と呼ばれる雪国秋田ほど種類は多くなかった。ここでは秋田の棚田周辺の森、沢、田んぼでよく食べられたものを列挙する。魚類では、イワナ、ヤマメ、カジカ、サワガニ、アユ、サクラマス、ドジョウ、フナ、コイ・・・。両生類では、マムシ、各種カエル類・・・。野生鳥獣ではクマ、ウサギ、ヤマドリ・・・。山菜では、フキノトウ、タラノメ、ギョウジャニンニク、アザミ、コゴミ、カタクリ、ニリンソウ、ミズ、シドケ、アイコ、ホンナ、ヤマワサビ、タケノコ、ウド、ウルイ、ゼンマイ、フキ・・・と種類が格段に多い。またキノコでは、シイタケ、ヒラタケ、サワモダシ、キクラゲ、タモギタケ、トンビマイタケ、マイタケ、ブナカノカ、ムキタケ、ナメコ、ヤマブシタケなど、これまたやたら多い。こうして昔から食べてきた生き物を列挙するだけで、棚田周辺がいかに生物多様性に富んでいるかが理解できるだろう。
 古い棚田の石垣には、様々なコケや地衣類、シダ植物が生えている。参加者から「数百年もの歴史を持つ棚田には貴重な蘚苔類やシダ類が生えていると聞いていますが、そのような調査結果はありますか」との問いがあった。残念ながら、そうした調査はなく、来年以降の宿題として残された。
分科会6:直接支払制度による中山間・棚田地域の再生
 最も盛況だったのがこの分科会。この制度は、平成12年からスタートし、平成16年で見直しがなされる予定になっている。それだけに、全国各地から交付金が多様に活用され、様々な成果が報告されると同時に、17年度以降も直接支払制度の継続・拡充を求める意見が相次ぎ、予定時間を30分もオーバーする盛況ぶりだった。

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