味わい深い郷土食 先人の知恵をくみとりたい
秋田さきがけ 2001年2月25日社説より

 「食文化」というと身構えてしまいがちだが、身近に豊富にあって比較的たやすく手に入る食材の調理を通して長年培ってきた文化、と表現することができる。いわば、地域の郷土料理の背景にある生活の工夫の積み重ねのことで、それぞれの地域に独特の食文化が育ち、継承されている。

 秋田市でハタハタをテーマに22日開かれた食文化フォーラムでは、食べることから豊かさとは何かを考えたいという意見があった。全く同感であり、食文化を大切にすることは生活にアクセントをつけ、充実させるきっかけになる。それは、ひいては「食」の在り方を通し、その地域でしか体験できないことを見いだす面白さにつながっていくと考える。

 ハタハタは初冬、産卵のため本県の岩礁地帯を中心に接岸する。漁は史実に基づくだけでも数百年の歴史があるとされ、かつては本県の漁獲量の半分を占め年間二万トンに達していた「県民魚」だ。しかし、捕り過ぎや海洋環境の変化などで昭和五十年代になると漁獲量は急減し、県は平成四年から三年間、全面禁漁の措置をとった。

 その成果があって資源に回復の兆しは見える。昨年の季節ハタハタ漁の漁獲実績は配分枠を三百トン上回る九百トン、沖合底引き網を合わせると約千トン。それでも往時の盛況には程遠く、「高級魚」のままだ。たらふく食べられる魚ではない。

 ハタハタは豊富に捕れた時代から、鮮魚のしょっつるなべのほか、保存食としての飯ずし、薫製などで県民に親しまれていた。秋田名物でもある。正月用の飯ずしづくりに主婦は腕を振るい、各種の漬物と同様に家庭の味を自慢し合った。地域の特産物を最大限利用するという意味で、ハタハタは本県を代表する食材の一つだった。漁獲量が減り、ハタハタ以外の海産物が、輸入品を含め大量に出回る現在でも、県民のハタハタへの思いは変わっていない。

 短期間に集中して大量に捕れたハタハタを、どのようにすれば長く、おいしく食べていけるか、先人は知恵を絞り独特の料理を考案した。それが名物とされる郷土料理であり、本県の食文化だ。地域の特性に根差したものであり、秋田ならではの味覚である。仮に県外に住む本県出身着がブリコたっぷりの季節ハタハタを送ってもらって食べたとしても、郷里での味をそのまま感じることができるかどうか。郷土料理は食材だけでなく作り方や作る過程での気候、食べる雰囲気など、さまざまな要素で構成されている。

 ある地域の漬物はそこで食べなければおいしくない、とされるような「神話が生まれるゆえんでもあるが、ハタハタに限らず郷土料理は各地でそのように扱われてきた。本県には農産物や林産物にも特産とされるものや独特の料理がある。料亭でしか味わえない特殊なものではなく、すべて家庭の味でもある。これらを大切にしていくだけでも、秋田に住んでいるかいがあるというものだろう。

 食べ物が、どこで食べても同じになったら、それこそ味気ない。しょうゆやみそを付けて焼いただけのおにぎりにも母親の味があるように、食べ物には強い力がある。それが地域の特性と結びつき、各地に食文化、広くは地域文化を形成してきた。食べ物や食事のありようが軽視されつつあるとすれば、大切なものを失っていくことにほかならない。

 そう考えれば、ハタハタは今後も長く漁獲する工夫をしなければならず、農産物にも山菜にも同じ態度で接することが、地域の住民にとっては最高のぜいたくにつながると思える。地元の産物を楽しく味わっていくことができれば、本県は「食」に関する先進県になれる。その素地や要素は十分にある。