The wood of the huge tree/Mt Waga lump

 秋田県内で最も広い原生林が残っている山域が、和賀山塊である。
 和賀山塊は、盟主・和賀岳(1,440m)をはじめ、朝日岳(1,376m)、小杉山(1,229m)、白岩岳(1,177m)、モッコ岳(1,278m)など、千メートルを越す山々に囲まれ、堀内沢、生保内川、シトナイ川、部名垂沢、行太沢、大相沢、袖川沢が競り上がっている。原生林の面積は、秋田県側だけで1万haを超える。

 和賀岳や薬師岳などは、古くから山岳信仰の対象として有名であったが、朝日岳は、長い間広く世に知られる山ではなかった。仙北マタギの狩猟の舞台ではあったが、登山としては見捨てられて薬師岳のニッコウキスゲ群落きた秘境の山、それが朝日岳である。それだけに、人を寄せ付けない険しい地形であり、貴重な動植物の宝庫でもある。

 山の頂上からの遠望は、女性的でやさしい印象を受けるが、近づけば、急峻な地形と荒々しい沢に驚かされる。今では、沢登りや山岳渓流愛好家たちの間で、原始性と秘境の面影を残す山塊として、全国的に有名な名渓の一つに数えられている。
 さらに日本一のブナが次々と発見されたことで、一躍脚光を浴びるようになったが、かつては山のプロと言われる仙北マタギなど、ごく限られた者のみが許される世界であった。それぞれの沢の奥には、現在でも道はなく、地形も険しいために、一般人が入ることは危険であることを付け加えておきたい。

これが、日本最大のブナ(秋田県角館町、白岩岳)、幹周り10.1m、樹高25m、推定樹齢700年以上。近づけば、思わず拝んでしまうほどの迫力がある。まさに「森の神」と呼ぶにふさわしい。
和賀山塊は、日本最大のブナをはじめ、全国ベスト3をここだけで独占している。さらに、日本一のクリやクロベも発見されている。和賀山塊は、まさに「巨樹の森のチャンピオン」と言える。
日本一のクリの木は、幹周り8.13m。推定樹齢は、800年。山側は、巨大な空洞となっている。このクリの実を食べれば、きっと不老長寿になる、そんな気にさせる神木だ。地元の案内人がなければ、こうした巨木に会うことは難しい。
日本第二のブナ(秋田県田沢湖町、小影山)。幹周り8.1m。日本一のブナは、明らかに老木だが、第二のブナは、年齢を感じさせないくらい若々しい。 天然秋田杉の巨木。和賀山塊は、樹種も豊富だ。同じ原生林でも、ブナが圧倒的に多い白神山地とは対照的な混交林であり、特に天然秋田杉の巨木は素晴らしい。原始のたたずまいを残す昔の山を体験するには、最高の場所と言える。
秘境の山・朝日岳を源流とする堀内沢。上の写真は、苔むした巨岩が累積、その天上から清冽な瀑布が降り注ぐ堀内沢上流マンダノ沢である。度肝を抜くような巨岩が累積した険しい沢であるが、その原始性は見事というほかない。ただし、沢登りの技術をもち、野営覚悟でなければ見ることが出来ない世界だ。
源流部の枝沢は、八龍沢、天狗の沢、蛇体淵など、「龍」とか「天狗」とか「蛇」といった獣のような名前が並んでいる。昔から人を寄せ付けなかったことがよくわかる。
樹齢400年ほどのブナ。
苔蒸した樹肌に太古の息吹を感じる。和賀山塊にどうして、こんな巨木が多いのだろうか。その秘密は、奥羽山脈にある。太平洋側から吹き上げるヤマセを遮り、峰を越えると、仙北平野に豊作をもたらしてきた「宝風」と同じ現象ではないだろうか。
日本最大の巨木から、涸れることなく湧き出す行太沢、百尋の滝、落差はおよそ60m。この上流左岸に、日本一のブナが鎮座している。 真木真昼県立自然公園、白岩岳や薬師岳を源に発する斉内川支流袖川沢の天然秋田杉。ここも、かつてはマタギや山人たちだけが歩いていた秘境の山であったが、昭和47年、全日本登山体育大会の会場となったのを契機に、手つかずの自然が残る山として全国に知られるようになった。
ミネラルをたっぷり含んだ、本物の名水を飲む。夏でも冷たく美味い。(生保内川支流シトナイ沢) この清冽な流れは、秋田県最大の穀倉地帯、仙北平野を潤す。同じ県内の「あきたこまち」でも、仙北の米はひときわ美味い。その美味さの秘密の一つが、原始性をとどめた本物の自然と美味しい水にあるのではないだろうか。
和賀山塊も山菜の宝庫、何でも揃う。タケノコ、ウド、シドケ、ホンナ、アイコ。 和賀山塊の深山で見つけた、珍しい純白のシラネアオイ(突然変異)。マニアにとっては高嶺の花だが、山野草は山で鑑賞してこそ価値がある。山野草は、採るのではなく写真を撮るだけにしたいもの。