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玉川毒水 田沢疏水と開拓T 田沢疏水と開拓U


天保12年(1841)〜平成10年(1998年)


玉川温泉の大噴


玉川温泉・湯川

玉川毒水・・・玉川温泉には、大小さまざまな湧出口があり、中でも「大噴(おおぶけ)と呼ばれる湧出口からは、97度の温泉が毎分8,400リットルも噴出、一ヶ所からの湧出量は日本一を誇る。その下流は、幅3mの湯の川となって玉川に注いでいる。この温泉は、全国でも稀に見るPH1.3の強酸性泉で、昔から「玉川毒水」と呼ばれる魚もすめない沈黙の川であった。

農業用水はもちろん生活用水にも適さず、河川の構造物にも被害を与えてきた。玉川は水量が豊富であるにもかかわらず、この毒水のために流域の開発を大きく阻害してきた最大の要因であった。昔から、様々な除毒対策が繰り返されてきたが、持続的な効果を得ることができなかった。

酸性水の中和こそ流域住民の永年の悲願であったが、平成元年10月に完成した玉川中和処理施設の完成によって約150年間に及ぶ毒水排除の夢が実現した。

玉川温泉の湧出量は、日本一だが、一秒間に湧出する量を1リットルのペットボトルに換算すると140本。一分間に換算すると、お風呂(200リットル)42杯分になる。強酸性泉の湧出量が日本一だけに、下流に与える影響も甚大であった。 天保12年(1841)、角館藩士、田口幸右エ門が初めて除毒工事に着手。亜硫酸ガスが噴き出している焼山に降った雨が地中にもぐり、大噴や周辺の噴泉から酸性水として出てくる。そこで、普通の地表に降った雨が酸性水と混じらないように水路を作った。これは、一定の効果を上げたが、安政6年の大洪水で決壊、毒水の被害は元の状態に帰した。


田沢湖に生息していたクニマス
昭和初期、地下溶透法・・・地下深く井戸を掘って酸性水を注入し、地中で粘土、岩石類と混ぜ合わせて化学的に中和させる方法により、大幅に除毒された水が地下水となって渋黒川に放出された。しかし、戦争が拡大されるにつれて放置され、もとの毒水に帰した。 昭和14年、玉川疏水国営開墾事業と電源開発を目的とした「玉川河水統制計画」が策定された。まず玉川温泉付近で地下溶透法により除毒、さらに昭和15年1月、玉川の水を田沢湖へ導水、毒水を希釈する方法が実施された。当初は一定の効果をあげたものの、田沢湖の酸性化が進み、世界で田沢湖にのみ生息していた幻の魚・クニマスも姿を消してしまった。

昭和後期、簡易石灰中和法・・・様々な研究・調査の結果、石灰石は酸性水と接触するとその酸性を弱める性質があることが分かった。そこで、酸性水をパイプで野外に積んだ石灰石に導水して中和させて渋黒川へ放流する方法が採用された。
1リットルのPH1.3の水をPH3.5にするには、PH7.0のペットボトル(1リットル)が160本も必要である。石灰石を通すと、わずか3グラムの石灰石でOK。 現在行われている方式は「粒状石灰中和方式」。この方式は、粒状の石灰石が大量に詰まった中和反応槽に玉川温泉の酸性水を流入させて中和する方法である。大噴でPH1.3だった酸性水がPH3.5以上と酸性を弱めて渋黒川へ放流している。



玉川温泉の源泉付近



玉川酸性水中和処理施設全景

平成元年10月、中和処理施設の試験運転開始、平成3年4月から本運転を開始している。1日の石灰石の使用量は、全体で約30トン。この施設の効果は大きく、玉川や田沢湖に魚や植物が戻り、下流域の土壌の酸性を緩和、河川構造物の酸害の減少、米の収穫増など様々な効果が出ている。田沢疏水の歴史とともに歩んだ除毒対策は、約150年で見事に達成された。

田沢湖町観光協会は、中和処理施設の本格的な稼動によって水質が好転したのを機に「いつの日か、再びクニマスを湖に戻してやりたい」という長年の夢をかなえるために、平成7年から「国鱒探しキャンペーン」を全国に展開した。西部劇でおなじみの「おたずね者探し」に似せたユニークなポスター、そして賞金100万円、平成9年には500万円に引き上げ、話題を呼んだ。全国から情報は寄せられたが、クニマスは見つからず、平成10年12月でキャンペーンはピリオドをうった。

田沢湖は、処理前のPH4.7に対して、平成10年度にPH5.6まで改善された。目標値PH6.0までは到達していないが、水面から魚影が確認できるまでになった。田沢湖は、湖が深く貯水量も多いため、湖水全体に効果を波及させるには時間がかかる。


左岸抱返り頭首工

神代ダム下流の玉川頭首工では、処理前PH5.7に対して、農業用水基準値PH6.0を超えPH6.5に改善されている。かつては、玉川毒水によって20〜30%(「秋田県歴史散歩」山川出版社)の米の減収をもたらしたと言われており、大変大きな効果があったと言える。

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