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The 3rd World Water Forum(WWF3)
 地球温暖化対策に関して具体的な目標を定めた「京都議定書」が採択された他、京都国際会館で第3回世界水フォーラムが開催された。参加は166カ国、約1万人。日程は3月16日から23日まで、京都、大阪、滋賀の3会場で「水と貧困」「農業、食料と水」「ダムと持続的な開発」など38の主要テーマについて約337の分科会に分かれて議論された。

 今回の取材内容は、19日から20日まで二日間にわたって議論された「農業、食料と水」の分科会と21日から開催された「水のえん京都フェア(みやこめっせ)」、京都1200年の歴史を支えた鴨川源流の水神様・貴船神社、琵琶湖疎水など。
危機に直面する世界の水と食料
 現在世界の人口は約60億人、2025年には80億人に達すると予測されている。20世紀に世界人口は3倍に増えたが、水使用量は6倍になった。現在、アジア・アフリカの31カ国が絶対的な水不足に悩み、さらに深刻な食料不足へと進行している。
 地下水の帯水層には2種類がある。水が補給される帯水層と補給されない帯水層・化石帯水層である。アメリカのグレートプレーンズの広大なオガララ帯水層や中国の華北平原にある深層の帯水層、サウジアラビアの帯水層のような化石帯水層では、このまま過剰揚水が続けば地下水はゼロになってしまう。アメリカ南西部や中東のような砂漠状態では、かんがい用水を失うことは農業を失うことに等しい。

 インドや中国の華北平原にある浅い帯水層は、水が補給される帯水層である。例えば、補給量の2倍の過剰揚水をすれば、揚水可能量は半減してしまう。帯水層の過剰揚水は、地球規模で同時に起こっている。世界の水使用量の70%が農業用水、20%は工業用水、残りの10%が生活用水である。従って、世界の水不足は、食料不足にも直面する大きな問題である。「遠からずして、世界の穀物需給の将来は、事実上、世界の水収支の将来と重なるだろう」(アースポリシー研究所長 レスター・ブラウン)
 2025年までに、世界人口の半数にあたる40億人が「水ストレス」に直面し、3人に1人が水不足に悩むと推測されている。増え続ける世界人口と経済活動の拡大が、水需給バランスを破綻させる可能性が高いことから、その問題解決の糸口を探るため、第3回世界水フォーラムが開催された。

●求められる安全な水
・水が原因の病気で子供たちが年間400万人(8秒に1人)死亡。
・発展途上国における病気の80%は汚水が原因。
・世界人口の約28%がきれいな飲み水を手に入れることができない。
・淡水魚の20%の種は水質汚染により絶滅の危機にさらされている。
 農業用水は、世界の水需要の7割を占め、特に水稲作は大量の水を無駄遣いしているとの見解が欧米関係者に根強いという。世界銀行・経済協力開発機構(OECD)などの国際機関では、水の経済的側面に重点を置き、水に対して適正な価格をつけ、利水者がその対価を支払う仕組みを作る水の価格化(WP)について盛んに議論されているという。一方、湿潤アジア地域では、水の価格化・WPの適用はなじまないと主張、今回の「農業、食料と水」分科会の主要な議論の一つとなった。
第3回世界水フォーラム・オープニングプレナリー
 「農業、食料と水」全体セッションのオープニングでは、沢田敏男元京都大学総長が「モンスーンアジア地域における水田稲作かんがいと水の重要性」と題して基調講演が行われた。世界の人口の6割を擁するアジアの一員として次の3点を問題提起した。1.食料として米が具備する優秀性 2.水田かんがい稲作は、環境に優しく持続可能性が高い農法であること 3.稲作の基本は水の管理にあると言われるように、かんがい用水・排水の重要性並びにその多面的な機能性に着目し、これをいかに活用、対処していくべきかであると。

 そして最後に1.世界のかんがいが多様性に満ちていること 2.世界の水利用の半分近くを占めるモンスーンアジアの水田かんがい用水の多くが、差し引きで大きな正の外部経済性、すなわち多面的機能を地域の社会経済にもたらしていること 3.農業上の直接の便益だけでなく、環境や地域社会へのインパクトを含む正負の外部経済性や持続可能性にも着目した、かんがいの歴史的な考察や総合的な評価が必要なことなどを重視したきめ細かい議論が必要であると訴えた。
 展示会場には、各国の「世界と水」に関する展示が行われ、国際色豊かなパネルの展示や議論が行われた。大きく分類すれば、人口急増と水不足・食料不足、水汚染、洪水の拡大、過剰な地下水のくみ上げによる枯渇・地盤沈下、地球温暖化により雨の降り方にも影響を与え水循環が変動している問題・・・。右の写真はインターネットのコーナーだが、常に利用者で満杯だった。
「農業、食料と水」セッション
分科会のテーマは以下の4点、最後に全体会議としてラップアッププレナリーが行われた。
●分科会1:モンスーンアジア水社会の発展、かんがいの多様性と多面的役割
●分科会2:かんがいの水生産性と外部経済・不経済
●分科会3:農村の水が育む豊かな生態系と水質保全
●分科会4:かんがいの多様性と多面的役割を踏まえた国際水議論のスコープの拡大の必要性
●ラップアッププレナリー(各セッションからの報告と質疑応答) 

 モンスーンアジア湿潤地域の水田かんがい農業は、多面的機能、循環的水利用、持続的な水利用、環境との共生といった特徴を有しているが、それらの特徴が国際水議論に反映されていない。これら4つの分科会では、モンスーンアジア諸国のかんがいの多様性と多面的機能について議論された。
分科会1:モンスーンアジア水社会の発展、かんがいの多様性と多面的役割
 各国の発表は、全てパワーポイントを使ったプレゼンテーション形式で行われた。今やパワーポイントは世界標準となっていた。言語は全て英語で行われ、ヘッドホンのチャンネル2に合わせると日本語の同時通訳が聞ける。

 米国のデイビット・グルンフェルトさんの「水田かんがいの多面的機能」・・・かんがいの価値は、作物生産による経済的な価値以上のものを含んでいる。特にかんがいの多面的価値は水稲栽培において顕著であり、かんがい用水によって、持続的で二次的な生態系が形作られている。東南アジア地域では、それが特徴的な社会文化的システムの基盤になっている。従って、水は単なる経済財ではなく、環境財、社会財、文化財、公共財となっているとの報告がなされた。
 中国のガオ・チャンイーさん「中国のかんがい開発とかんがいの多面的な機能」・・・中国の文明化の長い歴史の中で、農業は国家の基本とみなされてきた。中国のかんがいの歴史は、4000年以上を誇る。しかし、近年の急速な社会開発と経済発展によって、水不足と環境悪化に直面しているとの報告があった。
 スリランカのダルマセナさん「かんがいの多様性と多面的な機能」・・・水量調節を有する貯水池・タンクの建設技術は、B.C.400年、古代セイロン人が創出している。タンクは集落の核となり、水路網をとおしてタンクから水田にかんがいされている。タンクは流れの方向に段階的に配置され、1本の流路に沿って50以上のタンクが配置されている例もある。これら古代タンクの幾つかはユネスコの世界遺産になっている。スリランカでは、淡水の55%は人類に利用されることなく、海に流れ出ている。従って、この55%の淡水を利用するために、施設の整備をする必要がある。

 カンボジアのテン・タラーさん「カンボジアにおける水田かんがいの多面的な機能・・・カンボジアの水稲栽培は、天水栽培、かんがい栽培、くぼ地栽培の3つのタイプがある。特にくぼ地栽培は特徴的なもので、Colmatage農業と呼ばれている。その方法は、洪水時に、河川堤防の後背の低位部に河川から導水した水を貯めておく方法である。慣行的な農法には、生物多様性の維持、魚類の保全・漁業の支援、洪水緩和、文化的な遺産の保全、特徴的で魅力的な景観の創出、飲み水の確保などの多面的な機能がある。
分科会2:かんがいの水生産性と外部経済・不経済
 この分科会は、欧米型の経済性・効率性を重視したドライシステム(乾燥かんがい)とアジアモンスーン地域の水の循環・多面的な機能を重視したウェットシステム(湿潤かんがい)との違いや水の価格化に対する意見の対立が伺えた。それだけに興味深い分科会だった。その代表としてフランスとアメリカ、秋田県立大学短期大学部真勢徹教授の発表概要を記す。

 フランスのダニエル・ルノーさんの「モンスーンかんがいと乾燥かんがいの溝の狭まり」・・・ドライシステムと近代的なかんがい概念は、効率を理論的な根拠として、西洋の乾燥地域及び半乾燥地域で繁栄している。乾燥技術の技術目標は水滴であり、点滴かんがいが最も効率の高いかんがい方式である。この10年間で、アジアモンスーン地域のウェットシステムとドライシステムの二つの世界の溝は狭まっている。例えば、乾燥かんがいでは、作物を超えた生産力が考慮される一方、湿潤かんがいでは、水資源が乏しくなるにしたがって、「効率の概念」へと動いていると主張。

 アメリカのデビット・モルデンさん「農業における水の生産性、水稲栽培における正と負の外部経済性の測定」・・・最も多くの水を消費する作物は水稲である。水稲栽培は米の生産という直接的な効果があるが、社会的な効果の程度については、多くの議論が残されている。その理由は、適切なデータが不足していることと、不適切な研究手法に起因していると批判。結論として、水稲栽培に必要な消費水量に関して、認識の相違がある。また、水稲栽培から生ずる重要な正と負の外部経済性は、水田からの流去水に起因している。これらに対して既往の研究成果は、水稲栽培により生ずる潜在的な効果を過大評価している。目的を明確にし、より適切な研究手法を用いた研究の実施が望まれると主張した。
稲作は水の無駄使いか
 前国際水資源管理研究所理事、現秋田県立大学短期大学部真勢徹教授は、極めて刺激的なタイトル「稲作は水の無駄使いか」と題して発表。

 まず、欧米は企業的農業で、効率と利益を追求する農業であるが、アジアモンスーン地域の農業は自給的農業で利潤を追求する農業とは根本的に異なる。画面にある「Crop per Drop」、つまり欧米諸国の「単位水量あたりの作物生産性」という論理からみれば、アジアの水田農業は「改善を要する最も粗放な水使い」と批判されかねない。水稲作による水の無駄使いという見方には、アジアと欧米の営農背景と風土性の違いに対する無理解がある。今後グローバルな視点から議論すべきは「Crop per Drop」ではなく、「Person per Drop」、すなわち「単位資源量あたりの人口扶養力の考え方に立脚すべきである。

 アジアには、世界人口の6割が住んでいるが、この人口をまかなうのに世界の農地と農業用水のそれぞれ3〜4割を使っているに過ぎない。人口の扶養力や資源環境の面から見て、アジアの農業は世界平均の2倍近い効率を誇る。背景には、米生産量の9割以上がアジアに集中している事実がある。
 ヨーロッパの雨は年間を通して安定しているが、モンスーンアジアでは、季節的に降雨が集中し、しかも地形が急峻である。アジアの水稲作は、季節変動の大きいモンスーンの雨を水田という調節機能を生かしながら上流から下流へと時間をかけて反復利用する。洪水と干ばつを繰り返すモンスーン気候と向き合い、膨大な人口を養い続けてきたアジア社会の底流には、この稲作のメカニズムがある。比喩的に言えば、アジアは、水田という名の10億個もの調節ダムによって持続的に維持されてきた。

 これに対して安定した降雨と平らな地形を背景とする欧米型の畑作農業は、農業用水の効率性は個々のほ場で、あるいは一回一回のかん水単位でしか考えられていない。この両者の違いは、アジアの水が流域社会の共有財とみなされてきたのに対し、欧米の水は個人の資産として扱われてきた。
 今、農業用水の効率性を判定する指標として、単位水量から得られる生産物価格の多寡を測ろうとする動きが国際的に強まっている。そのルーツは明らかに欧米的思考があり、その延長線上に「水に価格をつける」水価政策の国際ルール化が提唱されている。

 こうした動きは、水と共生しながら持続的に維持されてきたアジアの農村社会の枠組みを理解しておらず、その生産構造を根底から覆すことにもなりかねないと警告。有限の水資源を人類全体でどう公正に配分するかは大問題だが、重要なのは個人資産としての、あるいは売買対象としての水の経済性ではなく、単位当たりの水でどれだけの人類を養えるかの指標をグローバルな公平性の観点から論じ合うことだ。

 画面のPIMとは、日本の土地改良組織のような農民参加型のかんがい管理のこと。近代以前から各地で、異常な渇水時に水の配分と労力の賦課を適切かつ円滑に調整してきたアジア風土調和型伝統的PIMは、他部門の利水者を加えた統合的水資源管理IWRMの一つの基本形になりうるとも語った。 

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