▼穂のついたヨシ、豆殻、稲ワラを用いた雪中田植え(「田代の行事食」より)・・・1月15日朝飯前、若水を汲んだ人が屋敷内の畑や家の側の田の上の雪を踏み固め、田んぼに見立てて儀式を行い、田ノ神様に稲の豊作を祈願した。

 稲ワラに大豆の枝茎と穂のついたヨシをヒモで結ったものを一株として9〜12株を雪に植え付ける。これはヨシの穂のように稲穂が長くなるように、大豆のように米粒が大きくなるようにとの願いがあった。(羽後町田代畑中 柴田政蔵)
▼山里の春(羽後町飯沢)
 「柔らかな雨音は春を告げる音だ。雲の切れ間からのぞく日差しはまだ鈍い。しかし、雪のかさは日ごとに低くなり、ザラザラの雪をほっつき返すと鮮やかな萌葱のバッキャ(フキノトウ)がツンとした姿をみせる。梅や桜の芽吹きも雨を吸って膨らみ、赤色を増してゆく。新しい命のはぐくみだ。

 いっとき早く地面の感触を得たくて、人々は踏み固まった雪をたたき割る。待ちきれない春への思いが、日々の暮らしの作業となる。

 風花の散り舞う日に梅が一輪、また一輪とほころぶ。田打ち桜ともよばれるコブシがフーワリと幻想的な花をつけると、誘われるように桜が開花し、それに呼応するかのようにツツジ、アヤメと花々が妍を競う。北国が撩乱の春となる。」(「勝平得之作品集 版画[秋田の四季]より」)
▼マンサクの花(羽後町刈女木湿原)・・・早春、葉に先立って4弁の黄色く細長い花を咲かせる。名前は、群れをなして咲く花を「豊年満作」に例えたという説と、真っ先に花が咲く「まんず咲く」が転じたという説がある。北海道や青森の一部では、春一番に咲くフクジュソウをマンサクと呼ぶ。鹿角地方では、フクジュソウをツチマンサクと言っている。

 秋田の山間部では、マンサクの花が一斉に咲くと気候が良く、花が多く咲いたり、花が下向きに咲くと豊作、と言ったように作柄を予言する花として信じられてきた。菅江真澄は、雄勝郡柳田付近の口遊びとして、次のように記録している・・・「まんさくは 雪の中より急げども/花は咲くとも実はならぬ」
▼フクジュソウ(羽後町上仙道)・・・里山に春を告げる草花で、バッケと並び「春の使者」と呼ばれている。雪解けとともに花を咲かせ、木々が芽吹く頃には枯れてしまう「春のはかない草花」(スプリングエフェメラル)の代表的な早春植物。。同種に、カタクリ、キクザキイチゲ、ニリンソウ、イワウチワなどがある。花期は、3月から4月。雪解けとともに地表にツボミと芽を出し、数cmの高さで花を開く。この頃が最も美しい。やがて草丈は15〜30cmにもなる。

 花は光沢のある黄色で、20〜30枚の花弁は、日が当たると上向きに開く。葉は羽状に細かく裂け、花が咲き頃は小さいが、花後は大きく茂る。江戸時代から栽培され、園芸品種も多い。花言葉・・・永久の幸福、思い出、幸福を招く、祝福
▼フキノトウ(バッケ、湯沢市三途川)・・・雪国・秋田に春を告げる代表的な草花。周りに雪があっても、早春の陽光を浴びて土から顔を出すと急に伸び出す。まだ開かない若葉は、天ぷら、刻んで味噌汁、バッケ味噌など春一番の山菜として楽しむ人も多い。大きくなったフキ採りは、田植えの終わる頃から始まる。
▼田の神様・・・山の神様が田の神様になる日は2月16日。山の神様にお礼と田の神様にお願いする。今年も豊作でお米がたくさんとれますようにと祈願する。この日は山に入ってはいけない、木を切ったりしてはいけないので休日とした。

▼山の神様・・・田の神様が山の神様になる日は10月16日。田の神様にお礼と感謝の意。冬になり、雪が降ってくるので、田んぼの稲株を雪で隠しながら、山に登って山の神様になると言われている(羽後町田代蒐沢 村上玲子)

▼山の神の年取り(12月12日)・・・11日の夕方に餅をつき、お膳にワラを敷き並べ、丸餅12個を並べ、山の掛け軸に供える。その他山の道具を供え、山仕事の安全を祈る。翌朝、シトギモチを作って、お神酒とともに供えて拝む。神に供えたシトギモトは、危険な山仕事に出かける時に食べる。ところによっては、オコゼ(魚の干物)を供える。
▼ヨモギ・・・キク科の多年草で、田んぼのあぜや土手、空き地などに群生する。早春の摘み草の代表で、農村の行事には欠かせない野草。桃の節句(3月3日)には、ヨモギを茹で、もち米に加えてヨモギモチを作り、菱形にしてヒナに供える。この餅を食べると寄生虫が発生しないという。

 端午の節句(5月5日)には、ショウブとヨモギを採ってきて、家や蔵の戸口の上や両側にさす。ヨモギとショウブを入れて風呂をたてるが、これを「ショウブ湯」という。ショウブ湯に入るのは魔よけのため。のぼせる人は、枕の下や布団の下にショウブとヨモギを入れて寝ると良いとされた。
▼桃の節句・・・神棚にひしもちと白酒を供えて、女の子の無事な成長を祈る。ひしもちの中には、旧3月3日頃に、萌え出した土手のヨモギの芽を摘み、米のとぎ汁でゆでたものを入れて作り、白酒の方には、桃の枝を三個の盃に一本ずつ添える。

 その日は仕事も休み、生家に遊びに帰れることから、嫁にとっては楽しみに待つ日であった。ひな人形を飾る家はごくまれで、自分の家にある人形を全部並べて飾り、ひなもちのほかに、料理を供えて近隣の子どもたちと一緒に楽しんだ(羽後町田代落合 佐藤ノブ)
▼キクザキイチゲ(羽後町上仙道)・・・キクザキイチリンソウともいう。早春、山地の林の中などに生え、白色から淡い紫色の花を一つ開く。日が照っている時だけ咲き、雨が降るとしぼんでしまう。花期は3〜5月。
▼カタクリ(羽後町上仙道)・・・雪国では特にカタクリが多く、花の色も濃いのが特徴。斜面を真っ赤に染め抜くカタクリの群生は、一際美しい。反り返って咲く花の姿は、春の訪れを喜び飛翔しているかのようにも見える。カタクリは全草を山菜(おひたし、天ぷら)として利用する。
▼タムシバ(湯沢市川原毛)・・・4〜5月、直径6〜14cmの芳香のある白い花を咲かせる。コブシと違って花の下に葉がないのが特徴。花弁は一般に6個。同じモクレン科のコブシは、タネマキザクラ、タウエザクラ、タウチツザクラなどと呼ばれ、農耕暦とされた。また、花が上向きに咲くと、その年は天気、横向きは風、下向きは雨などと天気占いにも使われた。
▼ザゼンソウ(羽後町刈女木湿原)・・・ミズバショウと同じサトイモ科で、共に同じ頃に花が咲く。葉は根から数本生え、葉柄の脇から紫褐色の仏炎苞(ブツエンホウ)を開く。その中の肉穂状の花軸に小花をつける。まるで僧侶が座禅をしているように見えることからこの名がついた。別名ダルマソウとも言う。
▼ミズバショウ(旧雄勝町秋の宮)・・・山間部のため池周辺や湿原に自生するサトイモ科の多年草。雪解けを待って、葉より先に純白の仏炎苞(ブツエンホウ)を立てて群生する姿は大変美しい。方言では「ベコノ舌」「河童の尻拭い」などと言われる。
▼ツクシ・スギナ(羽後町飯沢)・・・日当たりの良い土手や畦道、空き地、荒地などに生える。一般に、胞子をつくる茎をツクシ、スギの葉に似た緑の茎をスギナと呼んでいる。ツクシは、古くから春の訪れを知らせてくれる山菜として利用されている。ハカマと呼ばれる葉を取り除くのは面倒だが、卵とじや酢味噌和えにすると美味い。
▼端午の節句・・・神様にちまきを供え、軒に菖蒲(しょうぶ)とヨモギをさし、悪魔よけとした。菖蒲とヨモギは、束ねて風呂に入れ、枕元にも供えた。また、鍬や鎌にも結わえ付け、その日は村人全員、休日とした。

 ちまきは、鬼の角、菖蒲は刀の意味、いずれも邪気を祓うとされた。長芋のつる、しょでこで「良い事聞け、良い事聞け」と耳のそばで三回まわしておまじないした(羽後町田代蒲倉 鈴木エミ)
▼ヤマドリゼンマイ(羽後町蒐沢)・・・ゼンマイ科のシダ植物で、高原の草地に生える大型の野草。春の若芽は、ゼンマイと同じように山菜として利用する。若芽はゼンマイの倍くらい太く、茶色の綿毛に包まれている。ヤマドリが住むような所に生えることから、この名がついた。葉が開く前の若芽をゼンマイ同様茹でてから干して保存する。調理する前に水でもどし、煮物や炒め物に利用する。
▼ゼンマイ・・・沢沿いの傾斜地に大きな群落をつくって生える。ゼンマイは、葉の若芽と胞子をつける胞子葉がある。胞子葉は「男ゼンマイ」と呼び、採らずに残すとされているが、植物学的には「女ゼンマイ」。いずれにしても、胞子を飛ばし子孫を残す胞子葉は採らない掟となっている。採取したゼンマイは茹でてアクを抜き、天日で干しては何回ももみ、乾燥品として保存する。汁の実、煮付け、和え物、油煮などに利用する。
▼トリアシショウマ(羽後町蒐沢)・・・手前の細く伸びたものがトリアシショウマ、奥に生えているのはミズバショウ。山地の林内や草原、崖などに生える。茎の先が三つに分かれていて、この形が鳥の足に似ていることからこの名がついた。茹でたものをおひたしや和え物にして食べる。
▼クサソテツ(コゴミ、羽後町蒐沢)・・・写真は、山菜として利用するには成長し過ぎだが、葉が開く前の若芽は人気の山菜のひとつ。。茹でると鮮やかな緑色と特有の香り、クセもなく万人に好まれる山菜の一つ。天ぷらや和え物、おひたし、吸い物の具として利用する。
▼エンレイソウ(羽後町蒐沢)・・・山地のやや湿り気のある林内に生える。大きな葉が三枚あり、真ん中から1本の花柄を出し、先端に一つの花をつける。和名は「延齢草(エンレイソウ)」
▼スミレサイシン(羽後町蒐沢)・・・4〜6月頃、淡い紫色の花を咲かせる。根茎は、ワサビを細くしたように、よく発達している。花や葉はおひたしや天ぷらに。雪国では、昔からこの花の根をトロロにしてよく食べるという。
▼オオバキスミレ(羽後町蒐沢)・・・沢沿いや山地の湿った林床に生える。花は黄色で小さいが、葉は大きい。花と葉は、おひたしや天ぷらに利用する。
▼ニリンソウ(羽後町蒐沢)・・・沢沿いに群れをなして咲いている。所々にトリカブトが混生しているので、食用として採取する時は注意。若芽をおひたしや和え物、煮物、天ぷらなどに利用する。ニリンソウとはいっても、花は必ず二輪とは限らず、一輪から三輪の花をつける。
▼ギシギシ(旧雄勝町秋の宮)・・・野や土手などに生え、株の中心からのびる若芽は、強いヌメリがある。天ぷらが美味しいが、ギシギシやスイバの仲間はシュウ酸が多いので多食は避けたい。
▼カキドオシ(湯沢市杉沢)・・・シソ科のつる性の多年草で、花期は4〜5月頃。田の畦や野原などに群生する。花どきまでの若い全草を天ぷらで食べる。
▼ノジスミレ(羽後町田茂ノ沢)・・・日当たりの良い道端などに多いことからこの名がついた。スミレによく似ているが、根は白く、葉は立たず、花期はスミレより早い。葉は長楕円形か三角状の被針形。花は、淡紫色や青みのある紫色など変化が多く、ときに芳香がある。
▼スイバ(スカンポ、羽後町田茂ノ沢)・・・田の畦や土手に生える。春先の伸びはじめの芽や葉を摘んでおひたしや煮物、一夜漬けなどに利用する。昔は、春の田んぼで遊ぶご馳走で、生のまま酸っぱい茎に塩をつけてよく食べた。
▼ハンゴンソウ(羽後町蒐沢)・・・キク科の多年草で、山地の湿地や沢沿いの湿ったところに生える。花期は7〜9月頃。花どきは、1〜2mにもなる大型の野草。強烈な香りと強いアクがあり、一度茹でて一晩水につけたあと、煮物や酢の物、吸い物の具などに利用する。
▼セイヨウタンポポ(湯沢市杉沢)・・・ヨーロッパ原産の帰化植物。日本には20種ほどのタンポポが自生しているが、どれもよく似ていて一目で種を区別するのは難しい。花の総包の外片が反り返っているのがセイヨウタンポポ、総包がずんぐり膨らんでいるのがエゾタンポポ。

 セイヨウタンポポは食用に適し、サラダとして生でも食べられる。秋田に自生するエゾタンポポも食べられる。若葉を採って、少し長く茹で水にさらして苦みを抜き、ごま和え、油炒め、おひたし、煮物などに利用する。
▼タンポポの胞子(旧稲川町八面)・・・タンポポの茎から出る白い汁を手につけると、母乳が出なくなるとか、綿毛が耳に入るとツンボになると言われた。平鹿地方では、タンポポを踏みにじると雨になるという俗信もある。根を煎じて飲むと、健胃剤、解熱剤、発汗剤、強壮剤になると言われている。
▼タチツボスミレ(羽後町蒐沢)・・・里山周辺の人家近くで普通に見られる多年草。葉はハート形で柄が長く深い鋸歯がある。花は5弁で、下の一枚は細長く伸びて袋のようになっている。昔の墨入れに似ていることからこの名がついた。
▼アザミ(羽後町蒐沢)・・・アザミ類は種類が多いが、ほとんど食べられる。採取は、根を引き抜かないようにナイフで切り取る。刻んで味噌汁の具に。天ぷら、おひたし、炒め物も美味い。
▼ヤブカンゾウ(羽後町蒐沢)・・・里山の野原や土手、荒地に生え、新芽は鮮やかな緑色で美しい。左右に葉を広げる10cmほどのものをナイフで切り取り、おひたしや酢味噌で和えると美味しい。夏になると、橙色の八重咲きの大きな花を数個つける。
▼ノビル(ヒロッコ、羽後町蒐沢)・・・ユリ科の多年草で、野山や土手などに群生する。地下にラッキョウに似た球根がある。雪国では、解けはじめた雪の間から顔を出したばかりの黄色い若芽を球根ごと掘り出して全草を利用する。かつてヒロッコ堀りは子供の仕事だった。ヒロッコの白い球根は生味噌をつけて食べると辛味があって美味い。一般に酢味噌和えや味噌汁の具に利用する。
▼採取した里の山菜・・・左がノビル(ヒロッコ)、右がヤブカンゾウ。
▼水の神様・・・水のもち(ワラで編む)とお神酒を一緒にお供えし、田畑に必要な水が充分確保できるように祈願した。また、虫(ハチ、アブ)に刺されないように、もちを口でかんで顔や首につけた。6月1〜2日は農作業は休み。田植え前の休養をとり、農繁期に備える(羽後町田代蒐沢 村上靖一)
▼ホオノキ(羽後町刈女木湿原)・・・モクレン科の落葉高木で、30cm以上もある大きな葉をつける。この大きな葉は、田植え時のコビルメシをのせて出した。暖かい飯をのせ、それに黒砂糖入りの豆の粉をかけたもので、葉のまま握ると砂糖がとけ、葉の匂いもうつり非常に美味いおにぎりになる。昔は、この葉を干したものをタバコにして町の店に売ったという。店では、砂糖や魚を売るとき、今の買い物袋の代わりにホオノハに包んで売った。材は柔らかいので版木や下駄の歯、鉛筆材などに使われる。
▼ほの葉飯・・・入梅時の大安吉日に、早苗を植える。神様にお神酒、海草(ワカメ)、ニシン、ほの葉飯、まゆ玉を備えて、田植えの始まりを告げ、田んぼに植えられた苗が早く根付き、順調に生育するように祈った(羽後町田代軽井沢 佐藤ミヨ)
▼ほの葉まま・・・大きなホオノ葉にご飯ときな粉、ご飯と納豆を入れた「さつきのたばこ」料理。農家にとって田植えは稲刈り同様、一年で最も大切で忙しい作業。たばこ(休憩)は特に待ち遠しく、田んぼを前にムシロを敷き、車座になって男たちは酒っこを、女や子どもは「ほの葉まま」を頬張って食べ、一時の安らぎを求めた(田代軽井沢 佐藤 タキ)
▼ウバユリ(羽後町蒐沢)・・・光沢のある大きな若葉が特徴。山地の湿り気のある所に生える。夏に長さ10cmほどのラッパ状の緑白色の花を3〜4個横向きにつける。若苗、若葉を、塩をひとつまみ入れた熱湯でよく茹で、水にさらしてアクを抜く。料理は、おひたし、各種和え物、煮びたし、油炒め。鱗茎は、油炒め、甘味噌煮、茶碗蒸し。鱗茎をすりつぶすと、上質のでんぷんがとれるという。
▼ワサビ(羽後町蒐沢)・・・低山帯の沢沿いや広葉樹林内の湿った場所に群生する。上の写真は、民家のすぐ傍らにある湧水池の斜面に群生していたワサビ畑。4月〜5月頃、白い十字形の花をつける。全草が独特の辛味と香りがあり、薬味として用いられる。根をワサビおろしにしたり、酒粕に漬けたり、根茎と葉柄を刻んで、湯で処理したものに、醤油をさして食べたりする。
▼ウワバミソウ(ミズ)・・・沢沿いの湿った斜面に群生する。若茎は5月頃採取できる。ミズたたきは、まな板の上でスリコギや包丁の背でたたき、味噌を入れて食べる。粘りがあって美味い。茎は根とともに塩漬け、汁の実、煮付け、おひたし、卵とじなどに利用される。

▼ミズのコブ・・・9月頃になると、茎と葉の付け根に小さな丸いムカゴ状の実がつく。秋田ではミズのコブコと呼んでいる。歯ざわりが良く、粘り気のある甘さがあって、とにかく美味しい。
▼タケノコの煮しめ、ミズのお吸い物・・・田植えが終わると、豪華なさなぶり料理をつくり、作業に関わった全ての人を招待して宴が始まる。たけなわになると、歌が出始め「オラえのイモの子芽ぞろいするゾ」と競ってのど自慢。一束の苗に、農の生きる全ての祈りと願いが込められ、夜の更けるまで杯を交わし、田植えの労を癒した(羽後町田代軽井沢 佐藤ミヨ)
 雪国・雄勝では、農業はもちろん、春の山菜採り、夏のザッコとり、秋のキノコ採りなどにも精を出す。それは季節の恵みを味わうためばかりでなく、作物が生育しない長い冬を越すための準備でもあった。

▼ミヤマイラクサ(写真左:アイコ)・・・昔、アイコは「山の鯛(タイ)」とも言われるほど珍重された山菜。イラクサの仲間だけに、繊毛から刺激性酸性物質を含んだ液を出すので、採取するときは手袋が必要。おひたし、炒め物、汁物、和え物、一夜漬けに利用される。

▼モミジガサ(写真右:シドケ)・・・秋田の山菜の代表の一つ。4〜5月頃は全草を摘み、6〜7月頃は柔らかい上部を摘んで食べる。シドケ独特の香りがあり、おひたし、天ぷら、汁の実、煮付け、からし和えなどに利用される。
▼ウド・・・春、芽を出したばかりの若芽は、ウド特有の芳香を放ち、山菜として珍重される。白い根元は、皮をはぎ、生のまま三杯酢や酢みそ和えなどにして食べると美味い。皮はキンピラ、若い葉は天ぷらに。その他、味噌汁の具、茹でてごま和え、味噌和えなど。
▼イタドリ(旧雄勝町下院内)・・・日当たりの良い野や沢筋に生える。春の若芽は、親指ほどの太さで、中空の茎はポキッと折れる。生の茎は、皮をむいて塩をつけて食べる。皮をむいた茎を薄切りにし、塩もみにしてサラダなどにも利用できる。
▼クロモジ(湯沢市大台沼)・・・薄黄緑の花と上向きに開く葉が、羽根突きの羽根が青空から舞い降りてくるように見え、とても美しい。樹皮と幹には、独特の香りがある。葉からはクロモジ油がとれ、香水や石けんに使われる。枝は皮付きのまま、ツマヨウジや細工物に使われている。
▼アケビの花(湯沢市大台沼)・・・花の色は濃紫色。かつて子どもたちは、この花の芯をとり、先端の粘りを利用して額や鼻柱へつけたり、手に立てて別の指先でトントンたたき落とさぬようにして遊んだりした。アケビのツルを利用してカゴやコダシを作ることも盛んに行われた。
▼キノメカゴ(県立博物館)・・・材料のアケビ蔓(ミツバアケビ)は、7月下旬から雪が降る直前まで採取し、皮をつけたまま編む場合もある。一般に川につけて皮をはぎ、よく漂白してから作る。コダシ、手提げカゴ、ビン入れ、モミ通し、食器入れなどを作る。こうした製品を「キノメカゴ」と呼ぶ。
▼タネツケバナ(羽後町貝沢)・・・水田の畔や水路周辺の湿地などに生えるアブラナ科の草花。苗代にモミを播く前に、モミを水に浸けておくが,その頃に咲くので「種浸け花(タネツケバナ)」。
▼ムラサキサギゴケ(羽後町貝沢)・・・湿り気のある水田の畔などに群生する。葉は根元に集まり、横に這う枝を出して地面に広がる。花冠は、紅紫色の唇形。花期は4〜6月。
▼ツボスミレ(羽後町貝沢)・・・山野の湿った所に生える。ツボは坪(庭)の意味。花は白く、唇弁に紫の筋がある。茎は根元から枝を分けて株立ちとなり、高さ10〜20cmでやわらかい。
▼ハルジオン(旧稲川町八面)・・・北アメリカ産の帰化植物で、花期は4〜6月頃。草丈30〜60cm。早春の若い茎や葉は、おひたしや和え物、開花前の若いツボミは天ぷらに利用する。
▼菜の花水路(旧稲川町八面)
▼ヒメオドリコソウ(旧稲川町八面)・・・肥えた土では、写真のようによく群生し、上部の葉が紅紫色に染まることが多い。ヨーロッパ原産の帰化植物で、田んぼ周辺で雑草化している。
▼ミヤマカタバミ(旧雄勝町下院内)・・・山地の木陰などに生える多年草。花は白色で淡い紫色の筋がある。ごく普通に見られるカタバミは、花が黄色で、平地の路傍や道に敷いた小石の間、庭の隅など裸地を好む。全草がシュウ酸を含み、酸味が強いためスカンコなどと呼ばれる。全草食べられる。
▼エゾエンゴサク・・・毒草の多いケシ科の中では数少ない食用種。早春の里山を美しく彩る草花のひとつ。全草を摘み、おひたし、ゴマ和え、酢の物、油炒め、天ぷらなどに利用する。浄血、鎮痛、頭痛、胃潰瘍に効くと言われている。
▼シラネアオイ・・・ゼンマイ採りのシーズンによく見掛ける大型の花。1科1属1種の日本特産種。雪国のブナ林では、それほど珍しくもなく、ごく普通に見られる。それだけに親しみを覚える花。和名は、日光白根山にたくさんあり、花がタチアオイに似ていることから名づけられた。
▼キバナイカリソウ(羽後町上仙道)・・・淡い黄色の碇形の花をつけるキバナイカリソウ。淡い紫色の花をつけるのはイカリソウ、白い花はシロバナイカリソウという。
▼ムラサキヤシオツツジ・・・山の日当たりの良い斜面に生え、一際鮮やかな紅色で良く目立つ。高さ1〜2mほどの落葉低木で、ゼンマイ採りからワラビ採りの頃まで咲く。
▼ミツガシワ(羽後町刈女木湿原)・・・リンドウの仲間。写真は、萌え出たばかりの若葉。葉は三枚の小葉からなり、楕円形で質が厚い。6月、湿原一杯に白っぽい花が咲く。
▼山里の夏(羽後町田代蒐沢)
 「梅、桜、ツツジ、アヤメ・・・花々の季節が疾風のように過ぎると、新緑のグランデーションに溢れた景観に変貌していく。たっぷりと水を湛えた田の幼い稲は、軽い風にすらそよいでみせる。やがて、じっとりとした雨模様はアジサイの花に濃密な色どりを加えていく。稲の丈が伸び青田となって、除草作業の手は休まることがない・・・」(「勝平得之作品集 版画[秋田の四季]より」)
▼レンゲツツジ(羽後町刈女木湿原)・・・ツツジの中では花が大きく、湿原を朱橙色に染める景観は見事。花期は6月。日当たりの良い高原や湿原に生える落葉低木。方言では、ウマツツジ、ベコツツジ、ドクツツジなどと言われる。
▼サワオグルマ(羽後町刈女木湿原)・・・里山の田んぼの畔や用水路沿いに咲く美しい草花。ヤチブキ、ヤチアザミなどの方言名をもつ。50cm〜80cmほどになり、根ぎわの葉はヘラ形で長い柄をもつが、茎につく葉には柄がない。頭花は約20個内外で黄色の弁状花をつける。花期は5〜6月。
▼タニウツギ(羽後町刈女木湿原)・・・スイカズラ科の落葉低木で、花の形は漏斗型の淡紅色の美しい花をたくさんつける。昔、飢饉の時にはこの若葉を食用にしたという。仙北地方では、この花を家の中に入れると、火災が発生するなどと言って忌み嫌われる。
▼タケノコ(チシマザサ)・・・根曲がり竹と呼ばれているが、これは毎年雪に押されて根が曲がったものを言う。タケノコ採りのシーズンは、例年5月下旬から6月中旬。秋田の食文化には欠かせない食材で、タケノコ汁、炊き込みご飯、和え物、煮物、天ぷら、焼きタケノコなど。

 早春、雪消えと同時に芽を出すササタケのタケノコは、チシマザサのタケノコより美味いが、小さいため手数がかかり敬遠されがちである。
▼タケノコの煮物、タケノコの吸い物・・・写真左が本膳、右が二の膳。本膳左下がタケノコを使った煮物(さといも、うど、にんじん、タケノコ、コンニャク、赤きのこ、さけ)、二の膳の右下がタケノコの吸い物(鶏肉、タケノコ、コナラ)(田代上門前 長谷山富太郎)
▼シロツメクサ・・・方言では、ミツパ、コヌカイラズなどの名で親しまれている。子どもたちは、この花を摘んで編み、首飾りや王冠状にして身体を飾り遊んだ。また、幸福をもたらす四つ葉のクローバー探しもよくした。
▼すいか(羽後町五輪坂)・・・羽後町はお米と並び西瓜の一大産地。
▼ミヤコグサ(羽後町刈女木湿原)・・・名前の由来は京都に多かったことによるらしい。田んぼや畔、道端などの日が当たる場所に群落をつくる。花の形が烏帽子(えぼし)のようなので、烏帽子草(えぼしぐさ)とも呼ばれている。
▼ヒルムシロ(羽後町刈女木湿原)・・・沼に繁茂していたヒルムシロ。泥の中にある根茎は伸びて、水面に浮く葉と水中に沈生する葉をつける。水面上の葉は、長楕円形で水面上を埋め尽くすように繁茂する。名前の由来は、繁茂した葉をヒルの居場所にたとえたもの。
▼トキソウ(羽後町刈女木湿原)・・・6月、薄いピンクの花を1個つける。背丈が小さく、湿原の草に隠れてしまうので見つけにくい。これより少し大きく紫色の花をつけるのがサワラン。
▼ドグダミ(羽後町上仙道)・・・日向より陰地を好み群生する。上の写真は鎮守の森に群生していた。草全体に独特の悪臭があり、有名な民間薬草の一つ。6〜7月頃、白い4枚の花を開き、中央に淡黄色の小さな花が円柱形に集まって咲く。解毒効果があり、胃腸を整えるためお茶代わりに良く飲まれる。葉を蒸し焼きにしたものを腫れ物に、葉を入れて入浴すると腰痛に、煎汁はカイセン、タムシに良く効くと言われる。
▼バイカモ(東成瀬村不動滝)・・・漢字にすると「梅花藻」。花の形が梅の形に似ていることから、この名がついた。バイカモは清流にしか育たない植物、それだけにトノサマガエルも幸せそうだ。
▼ヤマボウシ・・・白い花が一際大きく、山里の田園を美しく彩る。花期は6月から7月。春のコブシと初夏のヤマボウシは、季節の花として代表的なもの。果実は、10月頃に実が赤く熟し、食べられる。
▼桑の実(東成瀬村赤滝)・・・山地に広く自生し、7〜8月頃、メスの木にはたくさんの実がつく。黒紫色に完熟した実は甘く美味しい。大量に採ってジャムや果実酒に利用する。

 かつて養蚕はどこでも盛んだった。現金収入となるマユを作ってくれたからだ。蚕を飼育するには、桑を作り、マユになるまで毎日桑の葉を摘んで運び、蚕に与え続けた。畑の半分、あるいは水田までつぶして桑畑にした。養蚕も米作りと同様、人の手が頼りだった。
▼初午(はつうま)・・・蚕(かいこ)や牛馬の祭日。百姓の副業として蚕を飼う家も多く、蚕の神様として深い信仰を寄せていた。「まゆぼ」は蚕の繭(まゆ)を意味している(田代蒐沢 村上玲子)
▼オニグルミ(湯沢市岩崎)・・・山野の川岸などに育つ大きな木で、時には25mくらいの大木もある。実は直径4cmくらいで、ブドウの房のようにかたまってつき、重く垂れ下がる。熟れた実は緑色の皮つきのままこぼれ落ちる。実の中の種子は、よく洗って乾かし、木槌などで砕いて、中の子葉の部分を食用とする。
▼さくらんぼ(湯沢市三関)・・・出荷は、6月下旬から7月中旬頃。キラキラ輝く美しい姿は「赤い宝石」「初夏のルビー」などと呼ばれている。三関のさくらんぼは、ほとんどが「佐藤錦」。甘みが強く、酸味のある味わいは最も美味しく人気が高い。「紅秋峰」は、7月10日前後の約5日間と出荷期間が短いが、糖度が高く甘い品種で、かつ大粒の実も硬く、日持ちするのが特徴。
▼サラサドウダン(東成瀬村須川湖)・・・深山に生える。6〜7月、枝先に鐘形の花を総状に多数吊り下げる。花の色は帯白色又は帯淡黄色で、紅色の筋が入り、先端は淡い紅色を帯びる。ツツジの仲間では最も紅葉が美しい。
▼ブナの実(東成瀬村須川湖)・・・秋になると、イガ状の殻斗が四つに割れて中の実がこぼれ落ちる。実は長径2cmほどで、ソバの実に似ている。炒って食べたり、粉にしてクッキーやお団子に利用する。
▼マイヅルソウ(東成瀬村須川湖)・・・深山の針葉樹林内に多く生える。葉脈の曲がった様子が、ツルが羽根を広げたように見えることから、舞鶴草と名付けられた。葉は卵心形で、基部は深い心形となって先は尖る。花は茎の先に20個ほどつく。
▼ワタスゲ(東成瀬村ウカミカマゴケ泥炭地)・・・ミズゴケ湿原に生える多年草。写真のように多数の株が集まって群落をつくり、白い綿毛が風になびく光景は大変美しい。
▼モウセンゴケ(東成瀬村ウカミカマゴケ泥炭地)・・・日当たりの良い湿地に生える食虫植物。腺毛は粘着し、小さい虫はこれに触れると動けなくなり、腺毛から分泌する液で消化される。花期は6〜8月。
▼神の田、作占い、豊穣祈願、雨乞い登山(八幡平北ノ又湿原)・・・7月は登山のシーズン。かつて百姓は講中をつくり、鳥海山や太平山などに豊穣祈願の登山をした。また日照りが続くと雨乞いに山へ登り、かがり火を焚いた。

 田代岳(1,178)では、湿原に点在する約120の池塘を「神の田」と称し、そこに自生しているミツガシワの花のつき具合や根の張り具合などの生育状態、池塘の水の張り具合で、その年の稲作の豊凶を占う伝統的慣習が伝承されている。
▼コバイケイソウ(八幡平北ノ又湿原)・・・夏の湿原は、まず白のコバイケイソウが咲き、それが終わりかけるとニッコウキスゲが咲き始める。高山や深山の湿原に群生する。茎の高さは1mほどになる。花期は6〜7月。
▼ニッコウキスゲ(八幡平天狗湿原)・・・夏山定番の花。ゼンテイカ(禅庭花)とも呼ばれている。山地や高山の草原に群生する。花は漏斗状の鐘形で、3〜4個、下から順に咲く。花の色は、バックの深緑に映える鮮やかな橙黄色あるいは山吹色。花は一日花で、朝咲いた花は夕方には閉じてしまう。それでもツボミが次から次へと咲き、花期は意外に長い。花期は7〜8月。
▼ハクサンシャクナゲ(八幡平天狗湿原)・・・別名「シロバナシャクナゲ」と言われる。花冠の内側に淡い緑色の斑点があるのが特徴。高山の針葉樹林内に生え、高さ1〜3mになる。夏、枝先に白色〜淡紅色の花を5〜15個咲かせる。
▼ハス(湯沢市)・・・古い時代に中国から渡来した水草。原産地はインドと言われる。池沼やため池など生える。紅色、紅紫色、白色などの大きく美しい花をつける。
▼お盆の生花(「田代の行事食」より)・・・生花(ハス、ミソハギ、こがね花、おみなえし、谷地リンドウ)、季節の果物や野菜、お菓子類など珍しいもの、初物を上げた。
▼ヨシ(羽後町蒐沢)・・・8月に入ったらすぐヨシを刈り天日で乾燥し、お墓や仏前に並べるスダレを編み、桂木の葉をよく乾燥させて新しい抹茶を作り、仏様を迎える準備をした(田代除野 阿部コト)。東北の茅葺き屋根の材料は、ほとんどがヨシ。
▼ノハナショウブ(羽後町刈女木湿原) ・・・山野の草原や湿原に生える多年草。茎は直立し50〜120cmになる。花は赤紫色で10〜30cmの花を開く。野山に自生しているノハナショウブを原種として品種改良がおこなわれるようになり、現在では2,000種類以上も育種されていると言う。花期は6〜7月。耐寒性があり、低温(冷涼性)よりも高温を嫌う。
▼ヤマユリ(羽後町田代)・・・夏の里山を美しく彩る代表的な花。大輪は強い芳香がある。花数の多いものはユリ根も大きく、茶碗蒸しやきんとんなどに利用する。
▼ミズギク(羽後町刈女木湿原)・・・8〜9月頃、黄色の花が咲き見つけやすい。
▼ヒツジグサ(羽後町刈女木湿原)・・・スイレンともいう。名前は、未(ひつじ)の刻(午後2時)に開花することから名付けられた。しかし、実際は早朝から夕刻まで咲き続けている。池沼に生える多年生の水草。葉は広楕円形で、水面に浮かび光沢がある。白色の清楚な花を1個開く。
▼山里の秋(羽後町田代蒐沢)
 「盆踊りの囃子の余韻とともに夜風がしみる季節となる。庭の片隅に虫の声を聞き取ると、秋は急ぎ足でやってくる。それでも日中の太陽はまだ照り返しがきつい。稲は穂波を整えて色づき始め、田は黄金色に眩しく広がる。

 澄んだ空気、晴れ上がった空の下、家族が絆を確かめ合う作業が始まる。人々の声が交錯して稲刈りが進んでいく。稲束はホニョに掛けられ、天日で乾かされる。・・・」(「勝平得之作品集 版画[秋田の四季]より」)
▼サワギキョウ(羽後町刈女木湿原)・・・茎の上部に総状花序をつくり、濃紫色で長さ3cm内外の唇形の花をつける。花期は8〜9月。

▼リンドウ(羽後町刈女木湿原)・・・この湿原の名物。青紫色の美しい花は長さ4〜5cmあり、茎の先や葉のわきにつく。花期は9〜10月。
▼季節の草花・ススキ、リンドウ等・・・8月15日の満月を豆名月と呼ぶ。ゆで豆、団子、季節の草花などを添えて、お月様の良く見える縁側又は座敷の戸を開けて燈明を灯して拝む。9月15日の満月を栗名月と言い、ゆで栗、団子、お神酒、ススキやリンドウなどの季節の草花を添えて拝む(田代古米沢 佐藤タマ・長谷山優子)
▼ガリメギイヌノヒゲ(羽後町刈女木湿原の固有種)・・・刈女木湿原の標本に基づき新種として記載発表された。短い地下茎をもち、多くは2果室であることが特徴とされ、他の地域では発見されていない。花期は8〜9月。
▼ダイモンジソウ・・・秋の渓流を白く彩る代表的な草花。5枚の花びらのうち下の2枚が長く、「大」の字に見えることから、その名がついた。
▼トリカブト・・・秋に咲く美しい花だが、かつてアイヌの人たちが、トリカブトの根からとった毒を矢につけて、ヒグマを捕ったというほど猛毒。雪国では「ブスシドケ」と呼ばれているが、「ブス」とは毒のことである。
▼山里の冬(湯沢市三関)
 「・・・空模様が急変し、パラパラと降り出したアラレは、わずかな秋の名残の草紅葉に小さな白い粉々をとどめて、冬の到来を告げる。板やムシロでの雪囲い、立木のコモ巻き、雪吊り、添え木などの作業がせわしい。ミゾレは湿りを含んで寒さにまだ慣れぬ体には、一段と冷気を感じさせる。
 町も村も、野も山も、雪に覆われてしまうと人々は炉端に集まり、背を丸めて炬燵を囲む。綿入れやウサギの毛皮の袖なしハッピは、すきま風の寒さを和らげてくれる。冬の夜長は祖父母の昔がたりの独壇場ともなる。寒月の夜、凍てついた道を踏みしめる足音がキュッキュッと響く。」(「勝平得之作品集 版画[秋田の四季]より」)
▼セリ(湯沢市三関)・・・初冬の風物詩・三関のセリは、豊富な清流に恵まれた山麓の扇状地で栽培されている。セリは、正月に食べる七草粥の七草のひとつに数えられているが、9月から翌年3月までの長期間にわたり栽培されている。

 湯沢市産のセリはシャキシャキとした歯ごたえがあり、根の部分が白く長いのが特徴。古文書によると、元禄年間に関口村山麓に自生していたセリを食していたという記録があり、古くから栽培されていた。最近はハウス栽培も盛んで、高品質な「三関セリ」としてブランド化を図っている。
▼七草雑炊・・・七草に用いるものは、あり合わせの野菜や山菜、七種の類・・・上の献立は、セリ、白菜、大根、かぶ、ワラビ、きのこ、たらの芽、もち、ご飯、味噌(羽後町田代明通 菅原スミ)
▼ハタハタ(男鹿市北浦)・・・秋田は、およそ半年が深い雪に覆われる。その冬ごもりの直前、ハタハタは大群となって押し寄せる。漁獲量が多く、しかも押し寄せるタイミングが初冬の寒い時期が幸いして、鮮度を保ったまま、内陸の山間奥地まで運び込むことができた。海から遠く離れた雄勝でも、ハタハタは行事食に欠かせない食材だ。
▼年越しのお膳・・・自給自足を強いられ、気まぐれな自然を相手に生きていく上で、神への信奉は、今では想像もつかないほど強く、また尊いものだった。一年間の無病息災と健康で過ごせた感謝のお礼、そして来たる新年に向けての変わらぬご加護の祈願を込めて女たちが腕によりをかけて作った。

 自分の畑で穫れた野菜、春から秋にかけて採った山菜。魚は身近に手に入るものを用い、ハタハタは秋田の魚として欠かすことの出来ないもの。子持ち魚に紅白のナマス、ブリッコを入れ、めでたいことが数多くなるように。煮付けは大根・ニンジン・ゴボウ・山菜、それに海の物の昆布の組み合わせ。魚のヒレを入れたヒラ碗など。

 年越しのお膳は母から娘へ、そして嫁へと伝承されてきた(羽後町田代菅生 有原トミ)
参考文献
「秋田農村歳時記」(ぬめひろし外、秋田文化出版社)
「田代の行事食」(田代婦人部、平成6年3月4日)
「勝平得之作品集 版画[秋田の四季](井上房子、勝平新一、秋田文化出版)
「山菜と木の実の図鑑」(おくやまひさし著、ポプラ社)
「山渓カラー名鑑 日本の野草」(山と渓谷社)
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「写真ものがたり 昭和の暮らし2 山村」(須藤功著、農文協)