羽後町岩城堤・・・2001年に引き続き二回目の駆除を実施、生き物の賑わいが復活
 2005年11月12日(土)、雄勝郡羽後町新町・岩城堤で第二回目のブラックバス駆除作戦が行われた。参加したのは、羽後町土地改良区、羽後町5団体釣友会、秋田淡水魚研究会、県南漁協、秋田県、雄勝地域振興局、地元住民・子供たちなど約40人。4年前、池干しによるブラックバスの駆除を行ったが、残念ながら完全駆除はできなかった。泥に刺さって生き延びたブラックバスが再び増え始めたことから、外来魚緊急駆除事業で二度目の駆除作戦が行われた。
 特定外来生物にオオクチバスの指定を巡って、バス擁護派から多くの意見が寄せられた。「在来種の減少がバスによる食害であると裏付ける証拠はあるのか」「完全に駆除することは不可能、バスの駆除は労力と税金の無駄」などとの意見も多い。

 今回二度目の駆除を行った結果・・・これまで慣れ親しんだギンブナやナマズ、コイ、ヨシノボリ、オイカワなどが着実に増えていた。池干しとブラックバスの駆除を行うことによって、ため池の生き物の多様性がこれほどまでに回復するとは・・・参加者は前回の悲惨な現実を見ているだけに、その回復力の凄さに驚いていた。
 岩城堤は、受益面積14ha、満水面積2.3ha、貯水量3万3千トン。管理者は羽後町土地改良区(齊藤保雄理事長、組合員2,384人)。岩城堤は、完全に水を排水できる構造になっているため、作業は順調に進んだ。
 2001年10月28日、羽後町土地改良区は独自に、秋田淡水魚研究会や湯沢雄勝淡水魚愛好会などボランティアの参加を得て第一回目の駆除を行った。その時の調査結果では、フナ類80尾、コイ15尾、ドジョウ2尾、ナマズ1尾、最大58cmの大物を含むオオクチバス1354尾・・・魚種別の個体数、現存量ともオオクチバスが卓越していた。
 排水中の池底のアップ・・・前回数匹しか確認できなかったナマズが多数確認された。上の写真右側に2匹のナマズが見える。左に横たわっているのは、大きなギンブナ(マブナ)2匹。
 下流に一匹も逃がすことなく捕獲するため、完璧なヤナを仕掛ける。ため池の水を数日かけて徐々に落とし、捕獲当日、一番底のゲートを一気に開ける。
 池の水位が低下するに従って、排水出口のプールに大量の魚たちが流下してくる。泥水で濁っているが、水面が魚たちの動きで波立つ。そこへ網を入れれば簡単に捕獲できる。大人たちは童心にかえってザッコとりに夢中。
 捕獲した魚は、魚種別に分類する。大型の丸い容器にはフナ類、四角い大型の水槽にはコイ、バケツにはナマズ、そして唯一水が入っていないバケットにはブラックバスを入れる。
 最も多いフナ類は、すぐに容器が満杯になった。軽トラックにブルーシートを敷き、水を張った荷台に生きたまま一時的に保管する。作業終了後、ブラックバス以外は、ため池に戻す計画だ。
 地元の小中学生たちも駆けつけ、捕獲作戦に参加。一度にブラックバスとコイの二匹を捕獲し、大喜びしながら分別場所に駆け込む。
 子供たちは、魚を捕まえる楽しさに、「やっぱり来て良かった〜」と何度も叫びながら捕獲作業に汗を流した。
 コイ・・・前回15尾しか確認できなかったが、今回は数え切れないほど捕獲した。いずれも傷ついた痕跡もなく、美しい魚体だった。
 コイの基礎知識・・・口元の二対のヒゲが特徴で、寿命も人間並みに長く、1m以上に成長することも珍しくないことから、「淡水魚の王様」と呼ばれている。河川の淵や湖、ため池、ダム湖など止水域を好む。タニシやカワニナなどの底生動物を砂泥ごと吸い込み、ノドにある頑丈な歯で噛み砕いて食べる。

 濡れた新聞紙にくるめば、水なしで長時間生かしておけるほど丈夫な魚だ。昔からアライや甘煮、コイコク(味噌汁)などに料理して食べる代表的な食用魚で、特に羽後町や旧雄勝町では、今でも自宅の池にコイを飼っている農家が多い。
 今回、最も多く捕獲されたフナ類。ギンブナ(マブナ)とゲンゴロウブナ(ヘラブナ)の二種が捕獲されたが、昔から生息していたギンブナが圧倒的に多かった。

 ギンブナ(マブナ)の基礎知識・・・昔から、ため池や田んぼ周辺の水路に多く生息し、最も身近な淡水魚の一つ。「釣りはフナに始まり、フナに終わる」という言葉があるように、淡水魚釣りの主役でもあった。体高はあるが、尻ビレのあたりから急に細くなるのが特徴。産卵期は4〜6月。春が来ると、産卵に備えて活発にエサをあさる。これを「乗っ込みブナ」と呼び、フナ釣りのベストシーズン到来を意味している。
 ゲンゴロウブナ(写真は大台第一ため池で捕獲された個体)・・・本来は琵琶湖が原産。釣り人の間ではヘラブナと呼ばれている。外見的には、体高が著しく高いのが特徴。成長も早く、60cm以上のものも釣られている。繊細で引きが強く、四季折々、異なった釣りを楽しめることから、この魚だけを追い続ける熱狂的なファンも多い。
 ナマズがブラックバスを食う・・・捕獲されたナマズの口からブラックバスの稚魚(死んで白くなっている上の魚)が飛び出した。二匹のナマズからブラックバスの稚魚が出てきたのを確認・・・ここにも前回ブラックバスの駆除を実施した成果が現れているように思う。
 ナマズの基礎知識・・・扁平な頭に大きな口ヒゲが特徴。田んぼは卵を食べる外敵が少ないことから、「田んぼで産卵する魚」としても有名。名前の由来は「ナマ(なめらか)、ズ(頭)」。昼は物陰などに潜み、日が暮れてから活動を始め、底生動物から小魚、カエルまで貪欲に食べる。最大で60cmほどになる。ブラックバスが侵入・定着すると、競合する種でもある。
 捕獲されたブラックバス・・・前回行った駆除の成果が大きく、40cmを超える大物個体は見られず、個体数もフナ類にその座を奪われていた。
 排水の量が少なくなると、魚の捕獲も容易で数も増える。全員泥まみれになりながら、網で捕獲する人、陸に上げられた魚を選別する人、一杯になった大型容器を軽トラックに積み替えする人、記録のために写真を撮る人、子供たちの捕獲を手伝う人など巧みな連携プレーで作業は順調に進んだ。
 水が少なくなると、泥や草に魚が潜る。網だけでは全量捕獲はできない。中央黄色の雨合羽を着ている人は、泥の中に両手を入れ魚を捕獲しているところ。
 捕獲されたブラックバスを大きい順に並べる。一番大きい個体でも全長で40cm以下だった。前回取り逃がしたブラックバスは、泥の中に刺さっていた小型のものであったことが分かる。
 捕獲されたフナ類は、ブラックバスと比較すると、数、総重量とも大きく上回っていた。昔の姿に戻りつつあることが伺える。
 羽後町土地改良区・齊藤理事長あいさつ・・・4年前、ザッコの会(秋田淡水魚研究会の俗称)の協力を得てブラックバスの駆除をやったお陰で、昔から慣れ親しんできたフナやナマズ、コイ、ゴリなどがたくさん捕れた。これも皆さんのご協力の賜物で心から感謝したい。今後とも、魚たちの賑わいを取り戻すため、池干しとザッコとりを継続的に行っていきたいので、引き続き皆さんのご協力をお願いしたい。
 秋田県水産振興センター内水面利用部長・杉山秀樹さんとザッコの会・草薙利美さんを講師に、ブラックバスの腹を裂き、何を食べているか、実際に体験する学習会が行われた。ブラックバスの体長、全長、重量の測定方法からお腹の割き方、胃の内容物調査まで分かりやすく指導した後、実際に子供たち一人一人が交代で腹を割き、胃の内容物を調査する体験を行った。
 左は、全長(口から尾ビレまでの全体の長さ)、体長(口から下尾軸骨までの長さ)を測定。右は、重量を測定。
 尻の穴からハサミを入れ、お腹を切り裂く。産卵期でもないのに、完熟した卵がこぼれ出てきた。産卵期は6〜7月頃のはずだが、11月に完熟とは・・・これには杉山講師も驚いていた。恐らく水温のせいではないかという。
 真剣な表情でブラックバスの腹を割く子供たち。アメリカザリガニを多く捕食していたが、中にはブラックバスやヨシノボリ、トウホクサンショウウオなども次々と出てきた。子供たちは、次は何が出てくるか・・・次第に夢中になり、かなりの数の腹を割いた。
 胃の内容物・その1・・・上からブラックバス、溶けかかっている魚は不明魚(ギバチかナマズ?)、右はアメリカザリガニ。
 胃の内容物・その2・・・左上は、原型をとどめたヨシノボリ、真ん中の足のある生き物はトウホクサンショウウオ。胃内容物調査で、サンショウウオが出てきたのは初めてのこと。それだけに体験学習を見守っていた参加者から驚きの声が上がった。

 トウホクサンショウウオ・・・山麓から標高数100mの丘陵に多く生息。体の背面は暗褐色または灰褐色で、胴の側面に多くの青白色の小斑点がある。尾が短く、四本の足も短い。林床に生息し、昼間は落葉、倒木、石の下に潜む。産卵は雪解けの頃、山間の止水で行われるが、湧き水などが流れ込む、緩い流れのある浅い池やきれいな水を好む。
 胃の内容物調査・その3・・・一番多く食べていたのは、外来種のアメリカザリガニだった。その他は、ヨシノボリ、ドジョウ、ブラックバス、トンボのヤゴなど。
 体験学習会が終わると、ブラックバス以外の淡水魚たちを池に戻す作業が行われた。参加者が軽トラックから池まで一列に並び、手際よくバケツリレーでフナ類やコイ、ナマズなどを再放流。末端の放流する位置には、子供たちが手伝った。「バスになんか負けるな、昔の岩城堤のように淡水魚の宝庫になれ」と祈りながら、丁寧に放流していた。
 捕獲したブラックバスは、全て体長を測定し野帳に記録された。捕獲数は511匹で、前回捕獲数の38%まで減少していた。しかも成熟した個体は少なく、大半が1〜2歳魚だった。
 捕獲されたブラックバスのうち、大型の個体は、食用としてブラックバス等外来魚駆除・回収袋に入れて参加者に配られた。外国の魚だけに油を使う料理に合う。バター炒め、フライ、空揚げ、煮付けなど。
 捕獲したブラックバスの成果を前に、駆除作戦の大成功を祝って記念撮影を行った。ため池の生き物の多様性は、「池干しとブラックバスの駆除」という「人為的かく乱」を加え続けることによって自然の回復力は一挙に高まる・・・という実体験に自信を深める一日だった。今後は、地域ぐるみで「ザッコとりと池干し」の行事を復活させるとともに、地域の貴重な資源でもある農業用ため池や田んぼ周辺の環境保全に向けた継続的な取り組みを期待したい。
参考文献
「淡水魚カタログ」(森文俊、秋山信彦著 永岡書店)
「田んぼの生き物図鑑」(内山りゅう著 山と渓谷社)
「日本の両生類・爬虫類」(小学館)