湯沢市大台第一ため池・・・ブラックバス完全駆除をめざして40人が駆除作戦に汗
 2005年11月11日(金)、秋田県湯沢市杉沢・大台第一ため池で池干しによるブラックバス駆除作業が行われた。参加した団体は、ため池を管理する湯沢市中央土地改良区(由利傳理事長、組合員1,493人)、大台沼自然公園愛護会(高橋順一会長、会員30人)、湯沢市釣連合会、秋田淡水魚研究会、秋田県、雄勝地域振興局など約40人。

 湯沢東小学校4年生57人も出前授業の一環で捕獲作戦に参加。しかし、雨による増水と一番底の止水板がなかなか外れず、捕獲作業を見守った。捕獲は困難を極めたが、最大52cmのブラックバスを筆頭に約230匹を捕獲・駆除した。
 今回最大のオオクチバス・・・全長52cm、重さ2.4kg。通称「ブラックバス」と呼ばれている。

 外来生物法・・・2005年6月1日、国内の生態系や農林水産業に悪影響を与える輸入動植物を規制する外来生物法が施行された。魚類では、オオクチバス、コクチバス、ブルーギル、チャネルキャットフイッシュの4種。その他アライグマやマングース、タイワンザル、カミツキガメなど計37種を特定外来生物に指定。飼育だけでなく、移動や輸入、野外へ逃がすことも禁止される。違反した場合は懲役3年以下又は罰金300万円以下、法人の場合は罰金1億円の罰則が適用される。
オオクチバスとは・・・その侵入と定着の経緯
 オオクチバスはスズキ目サンフィッシュ科。1925年、赤星鉄馬という人によって北米大陸から輸入され神奈川県芦ノ湖に放流されたのが最初。その後1965年頃から急速に分布を拡大し、2001年には全都道府県で生息が確認されている。口がバケツのように大きな魚であることからオオクチバスと呼ばれている。

 秋田県におけるオオクチバスの侵入と定着・・・1982年11月、秋田市内の沼で初めて確認され、その翌年には、八郎湖東部承水路と能代市浅内沼で確認された。以来、急速に分布を拡大し、2002年には、県内69市町村の約9割に当たる61市町村に及ぶ。県内の農業用ため池には、約2,900ヶ所のうち1割以上に生息していると推定されている。
オオクチバスの生態的特徴
 オオクチバスの各部の名称と働き

大きな口・・・バケツのような大きな口で小魚などを丸呑みにする。
尾ビレ・・・驚異的な機動力を生む力強い尾ビレ。急な方向転換もできる。

側線・・・水の振動、音をとらえる
胸ビレ・・・方向転換に役立つ(13〜15軟条)

腹ビレ・・・主に体の水平バランスを保つ(1棘、5軟条)
背ビレ、尻ビレ・・・体の安定を保つ

 体色は、背側が灰緑色で体側はそれよりやや薄く、腹側は灰色。背部と腹部には多数の黒斑がある。天然湖沼や農業用ため池の止水域で、水深10m以内の浅場を好む。河川では、水の流れの緩いワンドを中心に生息し、流れの速い瀬は好まない。 
寿命が長く大型・・・寿命は7〜8年と長い。成長が早く3年で体長20cmほどになり成熟、大型個体は体長50cm、体重2.5kgに達する。 

卵数が多い・・・体長30cm程度で4〜5万粒、体長40cmで12万粒にもなる。

オスが稚魚を保護・・・6〜7月、産卵期になるとオスが産卵床をつくり、メスを呼び込み産卵。卵は3日ほどで孵化し、3週間ほどオスが外敵から保護する。それがために生存率が高い。

環境適応力が高い・・・湖沼やため池、河川の流水域にも生息、冬に全面結氷する場所や底質が礫から泥まで多様な環境に適応できる。
何でも食べる肉食魚・・・魚類から甲殻類、水生昆虫、陸生昆虫、両生類、は虫類、鳥類、ほ乳類など何でも食べる。淡水生態系の頂点に位置する生き物。(左:ブラックバスの胃袋から出てきたブラックバス 右:胃内容物・・・ドジョウ、ヨシノボリ、トウホクサンショウウオ、ザリガニ、ブラックバス、トンボのヤゴ)
競合する種が少ない・・・ため池に生息するナマズ(左の写真)やカムルチー(右の写真)などの肉食魚と競合するが、中でもオオクチバスが優位を占める。食べる小魚などがなくなると、共食いの事例も数多く見られる。

 こうした島国・日本には存在しない生物学的特徴を持ち、かつ釣りの対象魚として人気があることから、人為的な放流も盛んに行われ、資源量を爆発的に増加させることを可能にした。
オオクチバスがため池の生態系に大きな影響を与えている事例
 2001年、県内の農業用ため池でブラックバスの駆除が本格的にスタート。以来、全県各地で池干しによる駆除作戦が展開された。その調査結果によると、ため池の生態系に大きな影響を与えていることが分かった。以下に代表的な事例を挙げると・・・

羽後町岩城堤(上の写真、2001年10月)・・・フナ類80尾、コイ15尾、ドジョウ2尾、ナマズ1尾、オオクチバス1354尾で、出現個体数及び現存量ともにオオクチバスが卓越していた。

横手市田久保沼・・・フナ類80kg、ナマズ50kg、コイ8kg、オオクチバス310kgで、オオクチバスが69%を占めた(2001年)。1998年、同沼でゼニタナゴの採捕記録があったが、その後確認されていない。

矢島町鶴田堤・・・ワカサギ20尾、コイ40尾、ギンブナ100尾、オオクチバス663尾、個体数で優占。かつ重量でオオクチバスが49%を占めた。

鷹巣町大堤・・・フナ類1000尾、コイ30尾、ナマズ15尾、オオクチバス495尾。オオクチバス以外は、全て摂餌不可能な20cm以上の大型個体であった。調査時に淡水二枚貝が多数確認されたことから、アカヒレタビラの絶滅は産卵床の消滅に起因するものではないと推察された。

秋田市小泉潟・・・オオクチバスが生息していなかった1978年の調査によると、17種に及び種の多様性に富んでいた。ところが本種が侵入した2000年には10種に減少、特にヤリタナゴ、アカヒレタビラ、ジュズカケハゼなどが減少した。

横手市の山間部に位置するため池・・・オオクチバスが侵入した2年後には、シナイモツゴが絶滅した。

湯沢市杉沢・大台第一ため池
 大台沼は3つのため池からなり、受益面積42ha。下流の2つの沼は、地域用水環境整備事業により公園として整備され、釣りの人気スポットになっている。大台第一ため池は、その最上流に位置している。満水面積2.1ha、貯水量6万5千トン。老朽化が著しく決壊の恐れがあることから、ため池等整備事業で改修が行われている。 
 今回のブラックバス駆除作戦は、湯沢市中央土地改良区と地元の釣り愛好家が中心となって組織する大台沼自然公園愛護会の要望を受け、外来魚緊急駆除事業で実施された。
 水系の最上流に位置するため池にオオクチバスが侵入定着すると、ため池の生態系に影響を与えるだけでなく、取水や洪水時の排水によって、下流河川へとオオクチバスが拡散する危険も高い。また生息が確認されているため池は、人による持ち出しが容易な場所が多く、拡散源にもなりやすい。従って、駆除の優先度も高い。池干しが可能なため池では、完全駆除を目標に実施している。

 写真は、雨が降り続く中、ため池の水を落とす作業。最下段の止水板は4枚。水圧と長年の老朽化が著しく、外すのに数時間を要した。 
 近年、池干しの行事が衰退するとともに、ヘドロが堆積・水質も悪化し、二枚貝が減っている所が多い。大台第一ため池では、たくさんの二枚貝が確認された。この上流には民家もなく、ため池の環境は健全であることが分かる。しかし、5、6年ほど前にはかなりいたスジエビやヌカエビ、ドジョウ、タナゴなどが、ブラックバスの侵入、定着後、ほとんど見られなくなった。
 排水によりオオクチバスが下流に流出しないよう、三段にわたってヤナを設置した。
湯沢東小学校4年生の出前授業
 湯沢東小学校4年生57人が、ブラックバス緊急駆除作戦に参加するため現地にやってきた。しかし、池干しが思うように進まず、秋田淡水魚研究会の草薙さんから説明を受けるにとどまったのは残念だった。草薙さんは、オオクチバスの侵入・定着の経緯から生物学的特徴、外来生物法に至るまで、分かりやすく説明を行った。
 捕獲したブラックバスを殺すのはかわいそうだという意見もよく聞くけれど、バスに食われる沼エビやフナ、タナゴなどの小魚たちはもっとかわいそうだと思う。
 子供たちの関心も高く、次々と質問が飛び出した・・・

質問1・・・バス以外にどんな魚がいますか。
 コイ、ヘラブナ、マブナ、ナマズ、ドジョウ、ハゼの仲間、モツゴ、タナゴ、スジエビ、ヌカエビなど。
質問2・・・ブルーギルは秋田にもいますか。
 今から4年前、5匹のブルーギルが秋田市内の河川で初めて確認されている。ブルーギルは繁殖力が強く、魚の稚魚や卵を好んで食べるため、拡大すれば在来の魚にとって脅威。

質問3・・・ため池の階段は、何のためにあるのですか。
 ため池の水を貯めたり、取水したり、排水したりする時の管理のために階段を設けている。

質問4・・・流した水は、どうやって戻すのですか。
 戻すのではなく、上から沢水が流れてくるので、止水板で排水口をふさぐと自然と貯まる。

池干しによるブラックバス駆除とコイ、フナ類の救出作戦
 一番下の止水板が外されると、排水とともに魚たちが次から次へと押し寄せてきた。捕獲した魚は、オオクチバスとフナやコイなどを選別する作業に追われた。
 最初に捕獲されたブラックバスは、いきなり50cmを超える大物だった。
 参加者が見守る中、全長、体長、重量、性別、胃の内容物が確認された。全長52cm、重さ2.4kgのメスで胃の内容物は空だった。八郎湖でも久しく見ることがなくなったビッグサイズのブラックバス。さらに解剖すると、お腹から大きな卵がびっしり・・・参加者たちを驚かせた。
 捕獲された魚は、放流されたヘラブナ(ゲンゴロウブナ)を除くと、在来種はほとんどいなかった。特にスジエビやヌカエビ、ドジョウ、タナゴなどの小型魚類はほとんど確認されず、ブラックバスが食べることのできない大型サイズのナマズも11匹と少なかった。
 フナやコイのサイズも20cm以下の小形魚は、ほとんど確認されず、一様にブラックバスが食べることのできない大型サイズに偏っていた。昔から大台沼に慣れ親しんできた人たちは、種の多様性が極端に減少していることに驚きを隠さなかった。
 次第に池の水が少なくなると、網に入る魚も急激に多くなる。参加者たちは、猫の手も借りたいほどの忙しさに追われる。
 選別されたフナ類やコイなどは、軽トラックに積み込み、下流のため池に移送された。こうした池干しによるブラックバスの駆除とそれ以外の救出作戦には、大きなマンパワーが必要だ。
 ブラックバスを次々に捕獲。参加者たちは、作業を見守るだけに終わった湯沢東小学校の生徒たちに捕獲したブラックバスをぜひ見せたい・・・と急遽発砲スチロールに入れて学校へ向かった。
 捕獲されたブラックバスのほとんどが体長15cm前後の1、2年魚だったが、45cm前後の大物が7匹捕獲された。
 大型のブラックバスは、全て解剖され胃の内容物が調査された。水温が低かったためか、空が多かった。一部、ヘラブナを捕食した尻尾が確認された。
 干しあがった池の内部では、泥に刺さったブラックバスを丹念に探して捕獲する作業も行われた。
 作業終了後、捕獲したブラックバスの数を確認・・・結果は230匹だった。昔は「ザッコとり」と称して約3年に一度は、こうした池干しの行事を行っていた。これは、ため池の生き物たちの多様性を維持するために欠かせない作業だ。今後は、下流のため池も含めて、池干しの行事を定着させ、完全駆除に向けた継続的な取り組みを期待したい。降り続く雨の中、泥まみれになって捕獲作業に取り組んだ皆さん、ご苦労様でした。
参考資料:ため池における生物多様性
「ため池は、かんがい用水を確保するために築造された人工的な水域である。それゆえであろうか、ため池が豊かな自然を育む貴重な水辺の空間であるという認識は、一般に根づいていない。・・・しかし、各地でため池の生物調査が進むにつれて、ため池が水辺の多様な生き物たちにとって、かけがえのない生活空間であることが明らかになってきた。

 ・・・ため池に蓄えられた貴重な水は、取水時間を集落や個人ごとに制限する慣行があり、丹精こめて守られてきた。秋の収穫が終わると、ため池の水を抜き、村総出で魚を捕った。これは重要なタンパク資源にもなった。

 有機質に富んだ底の泥をさらい田畑に入れて肥料代わりにすることもあった。池の底を空気にさらし干すことで、ヘドロの堆積を防ぎ、池底の環境を改善したり、水生植物群落の遷移が進むことを阻む効果もあった。このような人間による維持管理と共存してきたのが、ため池の動物や植物たちであった。

 ・・・ため池だけに生育している水草の中には、絶滅危惧種にリストアップされている種が少なくない。同様のことは、トンボやゲンゴロウなどの水生昆虫にもあてはまる。日本に分布する約180種のトンボのうち、80種がため池を主な生活場所としている。・・・植物、昆虫、魚類、水鳥などさまざまな生物群にとっても、ため池が地域の生物多様性を支える貴重な空間になっている」・・・「ため池における生物多様性の保全」(「農山漁村と生物多様性」家の光協会より抜粋)
参考文献
「ため池における外来魚・オオクチバスの影響と駆除」(農業土木学会誌第73巻第9号、杉山秀樹、神宮字寛)
「オオクチバス駆除の現場から」(秋田県水産振興センター杉山秀樹内水面利用部長)
「農山漁村と生物多様性」家の光協会
「バスフィッシングがわかる本」(つりトップ編集部編、学研)