2. アルコール依存症の診断および症状について



Q.アルコール依存症の患者さんはいったいどのくらいいるのですか?

.日本の飲酒人口は7,000万人程度といわれており、このうち毎日飲酒する
  者の割合は男性で30〜40%、女性で5〜10%といわれています。
    また純アルコールに換算して毎日150ミリリットル以上(日本酒換算で約5合
  半以上)飲酒する者(いわゆる大量飲酒者とよばれる者)の数は平成6年度
  で231万人と推定されています。
    このうちアルコール依存症として、専門的治療を受けている者は数万人
   程度であろうといわれています。
    もちろん大量飲酒者をすべてアルコール依存症者と断定するわけには
   いきませんが、実際にはアルコール依存症の治療が必要にもかかわらず、
   何も治療を受けていなかったり、あるいは一般医療機関で肝臓などの臓器
   障害の治療のみが行われていたりするケースが多いものと考えられています。

Q.アルコール依存症の診断についておしえてください。

.アルコール依存症の診断基準については現在、さまざまなものがありますが、
   1977年にWHOが提唱した「アルコール依存症候群(アルコール依存症と同
  義と考えてください)」では大きく3つの変化(@飲酒行動の変化、A主観的状
  態の変化、B精神生物学的状態の変化)があげられております。@飲酒行動
  の変化というのは、晩酌しかしなかったのに朝から飲むようになったとか、1日
  に何回も飲むようになったなど、飲酒の量や頻度の変化のほかに、多様性の
  減弱といって必ず酩酊するまで飲むとか、同じ時間、同じ種類の酒を一人で
  飲むなどの変化(要するにワン・パターン)、あるいは飲酒のために家族関係
  が破綻し、職を失うおそれがあるのを自覚していながら飲酒するなどの変化が
  あげられます。
   次に、A主観的状態の変化とは普通、飲酒上の問題が起こった場合、周囲
  も本人も問題を起こさないような飲み方にかえようとするものですがそれが出来
  ず、またもとに戻ってしまう状態、このお酒に対する抑制が効かなくなった状態
   (飲酒のコントロールの喪失)への変化はアルコール依存症の診断において
  重要です。
    また依存が強まるにつれ、「渇望」や「強迫的な飲酒欲求」が出現してきます。
  次に、B精神生物学的状態の変化とは主にアルコールの離脱症状の出現に
  ともなう変化で、この離脱症状を軽減するためにまた飲むという悪循環をきたし、
  結果としてアルコールに対する耐性が生じ、以前に比べ酔えなくなった、満足
  感が得られなくなったということになります。

Q.アルコール依存症の自己診断法にはどのようなものがあるのですか?

.飲酒状態(アルコール依存の程度)の自己診断法(スクリーニング・テスト)とし
  てはKAST(久里浜式アルコール依存症スクリーニング・テスト)やNCA法、CAG
  Eテストなどがあります。
   KASTは最近6ヶ月間の飲酒に関する問題行動や離脱の症状に関する14項
  目の質問(酒が原因で人間関係にひびが入ったか、酒を飲むまいと思っても
  つい飲んでしまうか、大酒飲みと非難されたことがあるかなど)に回答し、その得
  点をもとに評価します。NCA法はアルコール離脱症状群、耐性獲得徴候、心理
  依存徴候、アルコール性臓器障害に関する10項目のうち当てはまるものがある
  かどうかで判断します。
   CAGEテストも飲酒に関する問題行動などに関する4つの質問項目(CAGE は
  Cut down, Annoyed by criticism, Guilty feeling, Eye-opener の頭文字をとった
  ものです)のうちいくつ当てはまるかをテストします。

Q.アルコールと関係のある消化器の病気についておしえてください。

.特発性食道破裂(ブールハーフェ症候群)という食道の破裂が起きてしまう病気
  があります。これはアルコール飲料の摂取後に発生することが多いとされ、約80
  〜90%がアルコール性のものであるといわれております。
   他には多量に飲酒したあと嘔吐とともに大量の胃出血をきたす、マロリー・ワイ
  ス症候群という病気がありますが、これは嘔吐の際に急激に腹腔内圧が上昇し、
  胃の噴門付近に裂傷が生ずるためであるとされています。
    あとは急性胃炎や急性潰瘍(急性胃粘膜病変ともいいます)があげられます。
  また消化器の癌(食道癌、胃癌、直腸癌など)の発生頻度が高くなるともいわれ
  ております。

Q.アルコールと関係のある循環器の病気についておしえてください。

.多量の飲酒は高血圧をはじめ、脳卒中、心疾患の危険因子であることがよく知
  られています(ただし少量から中等量の飲酒は、虚血性心疾患には予防的に
  作用するともいわれています)。
    節酒することは減塩、減量、運動療法などとともに重要な高血圧治療法のひ
  とつと考えられています。一般に血圧は年齢とともに上昇する傾向にありますが、
  ある調査では毎日飲酒する習慣のある者は、もともと飲酒する習慣のない者に
  比べて10歳程度の加齢に相当する血圧(最大血圧)の値を示していたとのこと
  です。

Q.アルコールと関係のある神経の病気についておしえてください。

.アルコール依存症に起こりやすい神経の病気はたくさんありますが、ここでは
  慢性のアルコール摂取によるものをいくつか紹介いたします。
  アルコール依存症ではビタミンB1欠乏をきたしていることがあり、それが原因
  となってウェルニッケ-コルサコフ脳症という神経の障害が出現することがあり
  ます。典型的な症状は意識障害、眼球運動障害、運動失調などです。ほか
  にはビタミンB12欠乏によって起こる亜急性連合性脊髄変性症(下肢の感覚
  異常や脱力などのほか、貧血の症状もみられます)や、ニコチン酸欠乏によ
  るペラグラ脳症(痴呆やせん妄などのほか、皮膚炎、下痢がみられます)など
  があげられます。
   またアルコール依存症の人は栄養障害や肝障害などのため出血しやすく
  なっているうえに、転倒などで頭部を打撲することが多いためか硬膜下血腫
  が起こりやすく、注意が必要です。

Q.アルコールの離脱症状についておしえてください。

.アルコールの離脱症状は時間経過を追って一連のシリーズとして出現します。
  典型的なものでは飲酒の中断後6〜8時間でふるえ、落ち着きなさ、衝動的な
  飲酒欲求などが出現し、その後、場合によってはけいれん発作をともない、48
  〜72時間後には手足の強いふるえや幻覚(実際には目の前にいない小さな虫
  が多数みえるなど)、日時や場所が正しく認識できない(見当識の障害といいま
  す)など、いわゆるせん妄状態に移行し、離脱症状のピークに達します。
   そして栄養障害や身体疾患などの問題がなければ通常4〜5日後には回復に
  向かいます。
   しかし、このような一連のシリーズがいつも同じようにみられるとは限りません。
  またアルコールの離脱症状は必ずしもお酒を全く断つこと(禁断)を必要とはせ
  ず、睡眠中など血液中のアルコール濃度が低下しただけでも出現する場合が
  ありますので注意が必要です。